片想い婚
「おか、おかえりなさい……」
「…………」
「すみません、何か、変ですか?」
慌てて尋ねる。せっかくドレスも靴も新調してもらい、美についてもプロの手にかかったというのに、無駄だったと思われてしまっただろうか。
蒼一さんはしばらく瞬きもせず私を見つめ、ようやくため息を漏らしながら答えた。
「い、いや……変じゃない」
「本当ですか? 正直に言ってください!」
「嘘じゃない、あまりに綺麗でびっくりした」
突然そんな言葉が発せられたもので、私の顔は噴火したように真っ赤になった。可愛い、とかはよく言ってくれる蒼一さんだけど、綺麗、って初めて言われたような……。
彼はいまだ少し戸惑ったような顔で続けた。
「普段はこう、咲良ちゃんって可愛い感じだから、今日は大人っぽくて綺麗で、一瞬混乱したくらい……」
「い、言い過ぎでは」
「本当だよ、めちゃくちゃ似合ってる。可愛いし、綺麗だよ」
ストレートな褒め言葉に俯いた。お世辞でも嬉しかった。好きな人にこんなふうに言われて喜ばない女なんてこの世に存在しない。
「ありがとうございます……」
「そうだ、出かける前に。これを取りに行ってたんだ」
彼はそう言って手に持っていた紙袋を掲げた。不思議に思い首を傾げていると、蒼一さんが中から何かを取り出す。手のひらに収まるほどの小さな箱だった。それを長い指で開くと、中にあったものを見て一瞬息が止まった。
二つの結婚指輪だった。
式で形式上交換した結婚指輪は、当然ながらお姉ちゃんにサイズが合わせてあったので私には合わなかった。今はひっそりと引き出しの奥に眠っている。
蒼一さんも私も何も言わないまま、無言の了解のように二人とも指輪をつけていなかった。こんな形の夫婦に、指輪なんて変だと思っていたから。
まさか、私用に?
嬉しさで顔を上げて蒼一さんを見る。同居人だった私のためにわざわざ買ってきてくれたなんて、もしかして。
彼は優しく微笑んだ。
「指輪ないと、やっぱり周りは変な風に騒ぎ立てたりするだろうから」
自分の唇から小さな空気が漏れた。
喜びで緩めた頬が固まる。
「あ、……そう、ですね。ないと、変ですよね……」
そうか、そうだよね。ここで二人とも指輪してないなんて、仮面夫婦ですと言ってるようなもの。そのために買ってきてくれたのか。
一瞬期待した心に自分で笑った。もしかしてようやく妻として見てもらえるのかもって、これから夫婦としてやっていこうって言われるのかもって、期待してた。そんなわけない、未だ指一本触れられてない私がそんな風に言葉をかけてもらえるわけないじゃないか。
蒼一さんは並んでいる自分の分を手に取り嵌めた。それを見て私も指輪を取って自分でつける。蒼一さんがつけてくれるかも、って少しだけ心の底で期待したけど、そんな恋人らしい行為私たちにはありえない。それはこの指輪が形だけの結婚指輪だと証明しているように思えた。
「勝手に選んでごめんね、一緒に買いに行きたかったけど時間なかったから」
「いえ、そうですよね。可愛いです」
「パーティー終わったらはずしてもいいから」
サラリと言われた言葉に打ちひしがれ、言葉が出なかった。私はただ、返事もせずに無理矢理微笑んでいるしかできず、せっかく施されたメイクが落ちないよう涙を堪えるのに必死だった。
「…………」
「すみません、何か、変ですか?」
慌てて尋ねる。せっかくドレスも靴も新調してもらい、美についてもプロの手にかかったというのに、無駄だったと思われてしまっただろうか。
蒼一さんはしばらく瞬きもせず私を見つめ、ようやくため息を漏らしながら答えた。
「い、いや……変じゃない」
「本当ですか? 正直に言ってください!」
「嘘じゃない、あまりに綺麗でびっくりした」
突然そんな言葉が発せられたもので、私の顔は噴火したように真っ赤になった。可愛い、とかはよく言ってくれる蒼一さんだけど、綺麗、って初めて言われたような……。
彼はいまだ少し戸惑ったような顔で続けた。
「普段はこう、咲良ちゃんって可愛い感じだから、今日は大人っぽくて綺麗で、一瞬混乱したくらい……」
「い、言い過ぎでは」
「本当だよ、めちゃくちゃ似合ってる。可愛いし、綺麗だよ」
ストレートな褒め言葉に俯いた。お世辞でも嬉しかった。好きな人にこんなふうに言われて喜ばない女なんてこの世に存在しない。
「ありがとうございます……」
「そうだ、出かける前に。これを取りに行ってたんだ」
彼はそう言って手に持っていた紙袋を掲げた。不思議に思い首を傾げていると、蒼一さんが中から何かを取り出す。手のひらに収まるほどの小さな箱だった。それを長い指で開くと、中にあったものを見て一瞬息が止まった。
二つの結婚指輪だった。
式で形式上交換した結婚指輪は、当然ながらお姉ちゃんにサイズが合わせてあったので私には合わなかった。今はひっそりと引き出しの奥に眠っている。
蒼一さんも私も何も言わないまま、無言の了解のように二人とも指輪をつけていなかった。こんな形の夫婦に、指輪なんて変だと思っていたから。
まさか、私用に?
嬉しさで顔を上げて蒼一さんを見る。同居人だった私のためにわざわざ買ってきてくれたなんて、もしかして。
彼は優しく微笑んだ。
「指輪ないと、やっぱり周りは変な風に騒ぎ立てたりするだろうから」
自分の唇から小さな空気が漏れた。
喜びで緩めた頬が固まる。
「あ、……そう、ですね。ないと、変ですよね……」
そうか、そうだよね。ここで二人とも指輪してないなんて、仮面夫婦ですと言ってるようなもの。そのために買ってきてくれたのか。
一瞬期待した心に自分で笑った。もしかしてようやく妻として見てもらえるのかもって、これから夫婦としてやっていこうって言われるのかもって、期待してた。そんなわけない、未だ指一本触れられてない私がそんな風に言葉をかけてもらえるわけないじゃないか。
蒼一さんは並んでいる自分の分を手に取り嵌めた。それを見て私も指輪を取って自分でつける。蒼一さんがつけてくれるかも、って少しだけ心の底で期待したけど、そんな恋人らしい行為私たちにはありえない。それはこの指輪が形だけの結婚指輪だと証明しているように思えた。
「勝手に選んでごめんね、一緒に買いに行きたかったけど時間なかったから」
「いえ、そうですよね。可愛いです」
「パーティー終わったらはずしてもいいから」
サラリと言われた言葉に打ちひしがれ、言葉が出なかった。私はただ、返事もせずに無理矢理微笑んでいるしかできず、せっかく施されたメイクが落ちないよう涙を堪えるのに必死だった。