片想い婚
蒼一の想い
 蒼一さんがくれた。小さな石が光っている。シンプルででも綺麗だ。パーティーのためだとはいえ、私のために買ってくれた。

 これを外したくないと思った。私はもう子供じゃない、蒼一さんと結婚した大人の女だ。本当は彼に、一人の女性として意識してもらいたい。

 私の願いを聞いてもらえるとすればただ一つ。

 例えお姉ちゃんの代わりでもいいから、同居人からどうにかして脱出したいの

「……そうです。私、もう子供じゃないんです」

「そうだね。もう二十二だもんね」

「子供っぽく見られるけど違います。私は」

 隣に座る蒼一さんをみる。瞬間、茶色の瞳と目が合った。たったそれだけで、私の全身は縛られたように動けなくなってしまう。魔法だろうか、と思った。

 あなたの妻として隣に立つことがこれほど嬉しかったなんて。できれば本当に妻となれたらどれくらい幸せなんだろう。私は求めすぎなんだろうか。

 出したい言葉が出てこない。でも言いたい。言ったら彼が困ることなんてわかってる、けど伝えたい。

 私、は。




「あ」

 言葉を探している時、目の前の蒼一さんが声を上げた。首を傾げると、彼は笑って言った。

「そうだ。今日、来たよ」

「え?」

「咲良ちゃんのベッド」

 それを言われた途端、言おうとしていた言葉は脆くも崩れ去った。サラサラと砂のように、言いたかった気持ちも無くなっていく。

 嬉しそうに、ほっとしたように言った蒼一さんの顔が印象的だった。

「パーティーの間、山下さんに立ち会いお願いしておいた。あっちの部屋に設置したから、咲良ちゃんはそっちで寝てね」

「…………」

「これでゆっくり寝れるね。よかった」

 これまで毎晩隣で寝ていた私たち。それでもただ睡眠をするだけで、本当に彼は何もしてこなかった。

 彼の提案で購入した私用のベッド。私用の部屋。ここに完全に別室が確立された。

 それは『本当に手なんか出さないよ』という彼の強い意志だった。



「……はい、ありがとうございます」

「疲れたでしょう、先お風呂入っておいで」

「お言葉に甘えて。ありがとうございます」

「お礼の件は考えておいてね」

 私はニコリと笑って見せると、そのまま蒼一さんに背を向けた。ふらふらと部屋に入ってみると、新品のベッドが確かにそこには存在していた。

 苦笑する。褒められて調子に乗ってしまった。これほど対象外だと彼から突きつけられて、何を夢見ていたんだろう。

 普通、はさ。気持ちはなくても、男の人って女を抱けるんじゃないの?

 私はそんな気も起きないほど女として見られてないんだろうか。隣に寝て、それでも何もないんじゃもう救いようがない。きっと一生、私は彼と繋がることはない。

 左手にしていた指輪をそっと外し、近くの引き出しにしまいこんだ。綺麗な輝きを見せる石が、今はあまりに辛かった。





 

 
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