片想い婚
「うつすといけませんから、今日は夕飯お先にどうぞ。お皿置いておいてください、私明日洗うので」

 手短にそう告げドアを閉めようとした彼女に慌てて反応する。手を滑り込ませ閉め切られるのを防ぐ。

「待って! 熱測ったの? 水分取ってる? 食欲は?」

「熱は少しあるくらいです、水分も飲めてます。蒼一さん、うつるので……」

 顔を背けてそういう咲良に痺れを切らし、私はドアを思い切り開けた。白いパジャマを着ている彼女の姿がようやく見える。正面からしっかり見た咲良の顔はやはり真っ赤だった。私は無言で自分の手のひらを咲良の額に当てる。びくっと彼女が反応したのが伝わってきた。

 熱い。これは三十九度越えているぐらいでは?

「嘘ついたね、高熱じゃない」

「い、いえ……」

「ベッドに寝て。夜薬飲んだ?」

「まだ、です」

「食べれそうなもの持ってくるから、咲良ちゃんは寝てて」

 私がそういうと、彼女は慌てたように首を振った。

「うつります! 私一人で大丈夫ですから!」

 潤んだ目でそう言われ苦笑した。咲良はこういうところがある。優しすぎて人を思いやるあまり、自分を疎かにしてしまう。

 私は無言で彼女の熱い手をとり中へ引いた。ベッドに誘導すると、そっと座らせる。

「こんな時くらい頼ってほしいな」

「でも」

「はい、寝て。反論禁止。待っててね」

 布団に寝転がった咲良は申し訳なさそうにこちらを見上げた。それを安心させるように微笑む。

 そしてすぐさまキッチンへ向かった。テーブルにある食事は美味しそうだが高熱が出ている人にはやや厳しそうだ。私は簡単にお粥を作り冷蔵庫に入っている果物を剥いた。薬箱に入っていた風邪薬も用意し、たっぷり水分を持って再び咲良の部屋に向かう。

 慣れない生活にパーティーでトドメを刺したかもしれない。彼女が体調を崩しても仕方のないことだ。朝会った時は普通にしてたと思ったが、もしかしたらすでに体調が悪かったのだろうか。気づけなかった自分が憎い。

 ノックし扉を開けた。咲良はちゃんとベッドに横になっていた。私は持っていたお盆を一旦置き話しかける。

「食べれるかな、薬飲むから少しでも胃に入れたほうがいいよ」

「あれ、おかゆ? 蒼一さん作ってくれたんですか!」

「消化にいいものがいいからね」

「すみません、わざわざ作らせちゃった」

 申し訳なさそうに言ってくる咲良に笑う。

「お粥ぐらいで大袈裟だな。食べれる? 食べさせてあげようか」

「たた、食べれます!!」

 慌てた様子で彼女は起き上がる。私が差し出したお粥を受け取り、頭を下げる。

「果物まで……ほんとありがとうございます」

「無理しないでいいからね、食べれる分だけで」

「あとは大丈夫です。ありがとうございました」

「すぐ追い出そうとするね」

「だって、うつしちゃいます」

「その時はその時だよ」
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