片想い婚
「ダメですまだ顔も洗ってません!!」

「……ぶはっ。すごい表情」

「わわ、笑い事じゃないです! 体温計で測ります!!」

 私は笑いながら咲良を見ていた。恥ずかしそうにベッドの上でゴソゴソと動く様子が面白い。昨日と比べるにだいぶ体調はよさそうだった。

 彼女は熱のせいではなさそうな赤面した顔でチラチラと私を見る。

「私……寝言とか、いびきとか、大丈夫でしたか……」

「え? 大丈夫だよ、よだれくらい」

「ひぇ!」

「ごめんうそうそ」

「もう! やめてください!」

 必死に口元を拭く咲良にまた笑ってしまった。そんな時咲良が挟んでいた体温計が鳴る。取り出したのを覗いてみると、微熱ぐらいまでは下がっていた。

 咲良はほっとしたようにいう。

「よかった、だいぶ下がってます、蒼一さんありがとうございます。うつってないですか?」

「今のところ元気だよ」

「よかった。私ももう大丈夫」

「今日は僕は仕事休むから。朝食作ってくるね」

 立ち上がって体を伸ばした私を、彼女は驚いたように見上げた。

「え! おやすみですか? 私のせいですか?」

「違うよ。たまには有給使ってゆっくりしたいの。咲良ちゃんも一緒にゆっくりしよ」

「でも」

「まだ寝てなきゃだめだよ。あ、シャワーぐらい入ってくる? 朝食持ってくるから、この部屋で一緒に食べようか」

 私の提案におずおずと頷いた。微笑んでその光景を見た後、ようやく部屋を出る。自分も簡単に身だしなみを整え、キッチンで朝食を作る。

 まだ病み上がりなので和食にしよう、と簡単なものを用意する。咲良もその間、シャワーを浴びて着替えているようだった。水分や薬なども用意し、再び咲良の部屋へと向かっていく。

 一度ノックし声をかけた。

「咲良ちゃん、入っても大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

 扉を開けるとふわりと石鹸の香りがした。前髪の一部を少し濡らした咲良が座っている。なぜか恥ずかしそうにしている彼女にどきりと胸を鳴らしながら、それでも平然を装って持ってきたものを机の上に置いた。


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