片想い婚
「食欲はあるかな?」

「昨日よりだいぶよくなったので」

「そっか、無理しないで食べれるものを食べよう」

 近くにあったドレッサーの椅子を引いてきて自分も腰掛ける。咲良はベッドにもたれたまま申し訳なさそうに頭を下げた。

「本当にご迷惑をおかけしてすみません、私」

「迷惑だなんて思わないで。こういう時は助け合いだよ、僕が寝込んだら咲良ちゃんによろしく頼むから」

「! も、もちろんです任せてください!」

 突然鼻息荒くして言った彼女に面食らいながらも笑う。

「勢いいいね」

「お、恩返しをせねばと思いまして!」

「鶴みたいだね」

「機織りはちょっと……」

「あはは、もうなんの話。さ、食べよう」

 二人で手を合わせて簡単な朝食を食べていく。咲良は言っていた通りだいぶ体調が戻ってきたようだった。私が用意したものをほとんど完食し、薬も水分もしっかりとっている。

「よかった、食べれてるね」

「はい、きっと明日にはよくなります」

「咲良ちゃんはこういう時一人で頑張ろうとするけど、頼ってもらったほうが嬉しいよ。夫婦なんだから」

 そう言った瞬間、しまったと思った。夫婦、なんて単語を軽々しく使った自分に呆れる。

 形だけの夫婦でいいとこちらから言ったくせに。パーティーに参加させたり、夫婦だからと説得したり。自分の言動が矛盾していることは十分に承知していた。

 都合がいいんだ。

 それでも、咲良は怒らずに優しく笑った。柔らかな笑みで、嬉しそうにさえ見えた。その表情に自分はほっとした。夫婦、と呼ばれて嫌がられるかもしれないと思ったからだ。

「完治するまでゆっくりするんだよ。無理して動いたらぶり返すから」

「はい、ありがとうございます」

 咲良は柔らかく笑って僕にお礼を言った。ついこちらの頬が緩んでしまうぐらいの優しい笑顔だった。





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