片想い婚
 こんな時お姉ちゃんがいたらな、と思う。きっと蒼一さんのことをよく知ってるし、いろんなお店やブランドにも詳しいのに。……いや、お姉ちゃんがいたら蒼一さんの誕生日なんて祝えてないよね。苦笑する。

「必死だな」

 私の形相に蓮也が呟く。強く頷いて見せた。

「必死だよ、できれば喜んでもらいたいもん。何がいいのかなあー」

「別に深く考えずにさ、例えばタバコ吸うならライターとか、料理好きなら食器とか、そんな感じでいいんじゃね? いくつあっても困らないものは失敗しないよ」

 私は顔をあげて感心しながら蓮也を見た。相変わらず彼はめんどくさそうでどこか不機嫌にも見えるのだが、いくつあっても困らないものは失敗しない、の発言は的を得ている。

 確かに財布とかは基本持つのは一つだし、外したら困っちゃうもんね。

「そうだね、そう言うふうに考えるよ!」

「早く決めよう。なんでもいいよ」

「なんでもはよくないよ! ほら、あっちの店も付き合って!」

 私は蓮也の腕を引っ張って軽い足取りで歩いた。蓮也は文句を言いながらも、しっかり私についてきてくれていた。






「蓮也ありがとう! 本当に助かった、自分一人じゃどうしていいか分かんなかったんだよね!」

 私は食後の紅茶を飲みながら改めて彼にお礼を言った。
 
 買い物を無事終えた頃には思ったより時間が過ぎていた。夢中になり時間を忘れていたらしい。私たちは街より少し外れた小さなカフェで遅めの昼食を取った。

 場所からか、それとも時間が時間だからか、店内はあまり人がいなかった。私たちは昔話に花を咲かせながらまったり昼食をとった。結婚してから友達と食事なんて取れてなかった私には最高の気分転換になる。

 蓮也はジュースを飲みながらいう。

「別に。そんな大した助言してないし」

「ううん本当助かったよ! これであとは当日渡すだけ。喜ばれるといいなあ」

 私はその様子を想像して笑った。いや、わかってるんだ。蒼一さんは優しいから、きっとどんなものをあげたって喜んでくれる。彼のそんなところがやっぱり好きでたまらない。

 私が一人ワクワクしているのをじっと見ていた蓮也は、ストローでジュースをぐるぐるとかき混ぜた。氷の涼しげな音がカラカラと響く。

「楽しそうだな咲良」

「え? あは、そうかな」

「もう慣れちゃった感じ?」

「そうだね、少しは慣れてきたかな。私全然料理なんてできなかったのにさ、最近上達したんだよねー! 蓮也びっくりするよきっと!」

 ガッツボーズをとって笑ってみせる。蓮也から憎まれ口でも叩かれるかと思っていたのに、彼は何もいわなかった。無駄にストローで遊んでいる。こちらを見ないまま言った。
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