片想い婚
山下さんはふふふっと思い出し笑いするように言う。
「初めは心配してたけど、咲良さんも慣れてきたみたいですね」
「よかったです、山下さんもフォローしてくださって」
「いいえ私は何も。もう、咲良さんって本当に可愛らしいからこっちも微笑ましくて! ふふ、ケーキもあんなに練習して」
そこまで言った時、彼女はあっという顔をした。私はキョトン、として首を傾げる。
「ケーキ?」
聞き返すと、彼女はしまったとばかりに頭を掻いたが、すぐに私に言った。
「ここで言うべきじゃないのに言っちゃったわ。私ったら。でもだってね、必死にケーキを焼く咲良さんが本当に恋する女の子って感じで微笑ましくて」
「……え」
恋する、という言葉が聞いて止まる。山下さんは私の様子に気がついていないようで、嬉しそうに話し続けた。
「練習してるんですよ、プレゼントするケーキ。愛されてますね」
目を細めて私に言う彼女の顔を見て、体が停止した。
プレゼントとケーキ、という単語を聞いて思い浮かぶことがある。それは数日前、咲良から出された話題だった。
もう少しすると私の誕生日が来る。当日は予定があるのかと尋ねられた。今まで誕生日は、友人や綾乃と飲むか、時には特別なこともせず一人で過ごすこともあった。いい大人になれば親だってわざわざ誕生日を祝うことはないのだ。
だから自分の誕生日など特別視したことがなく頭からすっぽり抜けていた。正直に予定などない、と告げると、家でお祝いをしようと咲良は嬉しそうに言ってくれたのだ。
それだけで自分でも呆れるほど心が躍り、あんなにどうでもよかった誕生日が特別な日に感じられた。
このタイミングでケーキなどと言われれば、期待しない方が無理なのだ。
(私のために? ケーキを練習している)
頭の中がぐるぐると回る。それは山下さんが発した『恋する女の子』という言葉が一番私を混乱させた。
好きな人がいる、といつだったか咲良は言っていた。私はそんな相手がいるのに結婚させてしまったことに罪悪感を覚え苦しんでいた。彼女に愛される男が羨ましくてたまらなかった。
(……待て、自惚な考えが消えない)
自分の頭を抱えた。そんな馬鹿な、という考えと、もしかしたら、という希望が自分の中でせめぎ合っている。
咲良の好きな人が、私だったら??
「初めは心配してたけど、咲良さんも慣れてきたみたいですね」
「よかったです、山下さんもフォローしてくださって」
「いいえ私は何も。もう、咲良さんって本当に可愛らしいからこっちも微笑ましくて! ふふ、ケーキもあんなに練習して」
そこまで言った時、彼女はあっという顔をした。私はキョトン、として首を傾げる。
「ケーキ?」
聞き返すと、彼女はしまったとばかりに頭を掻いたが、すぐに私に言った。
「ここで言うべきじゃないのに言っちゃったわ。私ったら。でもだってね、必死にケーキを焼く咲良さんが本当に恋する女の子って感じで微笑ましくて」
「……え」
恋する、という言葉が聞いて止まる。山下さんは私の様子に気がついていないようで、嬉しそうに話し続けた。
「練習してるんですよ、プレゼントするケーキ。愛されてますね」
目を細めて私に言う彼女の顔を見て、体が停止した。
プレゼントとケーキ、という単語を聞いて思い浮かぶことがある。それは数日前、咲良から出された話題だった。
もう少しすると私の誕生日が来る。当日は予定があるのかと尋ねられた。今まで誕生日は、友人や綾乃と飲むか、時には特別なこともせず一人で過ごすこともあった。いい大人になれば親だってわざわざ誕生日を祝うことはないのだ。
だから自分の誕生日など特別視したことがなく頭からすっぽり抜けていた。正直に予定などない、と告げると、家でお祝いをしようと咲良は嬉しそうに言ってくれたのだ。
それだけで自分でも呆れるほど心が躍り、あんなにどうでもよかった誕生日が特別な日に感じられた。
このタイミングでケーキなどと言われれば、期待しない方が無理なのだ。
(私のために? ケーキを練習している)
頭の中がぐるぐると回る。それは山下さんが発した『恋する女の子』という言葉が一番私を混乱させた。
好きな人がいる、といつだったか咲良は言っていた。私はそんな相手がいるのに結婚させてしまったことに罪悪感を覚え苦しんでいた。彼女に愛される男が羨ましくてたまらなかった。
(……待て、自惚な考えが消えない)
自分の頭を抱えた。そんな馬鹿な、という考えと、もしかしたら、という希望が自分の中でせめぎ合っている。
咲良の好きな人が、私だったら??