片想い婚
咲良の憂鬱
朝目が覚めた時、隣のベッドが空っぽになっていることに気がついた。
はっとして時計を見る。今朝は早起きして蒼一さんに朝食を作ろうと張り切っていたと言うのに、予定していた起床時間はとっくに過ぎていた。私は飛び上がってベッドから降りる。
寝室のドアを開けると、いい匂いがほのかに鼻についた。もしやと思い、急いでキッチンへ走っていく。
「あ、咲良ちゃん、おはよう」
やはりそこには、蒼一さんが笑って立っていた。ダイニングテーブルには朝食が置かれている。トーストにサラダや目玉焼き。知らなかった、蒼一さんって料理もできるんだ。
……ってそうじゃない! 私は一気に青ざめた。
「ご、ごめんなさい私寝坊して……! 朝食を作ろうと思っていたのに!」
形だけとはいえ嫁いだ身。それなのに、引っ越して早々寝坊し夫に調理させるだなんて。蒼一さんはもう今日から会社の勤めがある。そんな人に何をさせているんだろう私は!
彼はあははっと柔らかく笑った。
「昨日引っ越してきて疲れてるのは咲良ちゃんでしょ。今日は洋食にしちゃったけど、和食派だったかな?」
「い、いえ、どちらでも!」
「そう? 僕もどっちでもいいんだよね。冷めないうちに食べようか、顔洗っておいで」
そう言われ、まだ顔すら洗っていない状態で駆け込んでしまったことを恥ずかしく思う。私はなんとか頷くと、そのまま急いで洗面室へ向かった。
見知らぬ廊下を走り、見知らぬ洗面室で顔を洗う。違和感だらけだった。私は昨日初めてこの家に来たばかりで、家の作りすらうまく把握できていない。蒼一さんは私よりしばらく前から住んでいるらしいし、彼の家の離れなので私よりはわかっているだろう。
急いで簡単に身支度を整えると、蒼一さんが待っているリビングへ戻った。彼は食事を始めることなく私を待ってくれていた。こちらを見て優しく笑う。
その優しさだけでできているような笑顔にときめくと同時に、昨晩本当にただ隣で寝ただけで終わってしまったことを思い出した。一応結婚した男女が、同じベッドで寝てただ睡眠をとった、だなんて。
「食べようか」
言われてハッとする。慌てて彼の前に座り込んだ。
「すみません、私がやらなきゃいけないのに」
「いいんだって。はいいただきます」
手を合わせて丁寧に挨拶する彼の美しさに一瞬見惚れながら私も倣った。少し冷めてしまった朝食を口に運ぶ。まさか朝から蒼一さんの手料理を食べる日が来るだなんて。
ちらりと前を見れば、彼は何も意識していないようで涼しい顔してパンを食べていた。格好はすでにスーツを着ている。白いシャツが眩しいほどだった。私はすっぴんでパジャマだというのに。
「お、美味しいです」
「そう? よかった」
「蒼一さん料理も上手なんですね」
「やだな、目玉焼きぐらいで料理って」
目を細めて彼は笑った。何となくほっとして食事を進める。なんか変な感じだな、蒼一さんと二人きりで食事をするなんて。
「まだ咲良ちゃんは荷物片付け切れてないでしょ? 今日ゆっくりやればいいから」
「は、はい」
「もし僕の母とか来ても出なくていいから。今日は咲良ちゃんがゆっくりすること」
「は、はい……」
蒼一さんのお母様には昨日挨拶だけした。どこか冷たい視線で見られているのに気がついていた。蒼一さんがうまく場を切り上げてくれて少しの時間だったけれど、あれがお母様と二人きりとなれば辛すぎる。
私はきっと天海家の嫁として相応しくないって思われているんだろうなあ……。
「あ! あの蒼一さん、夕飯は何か食べたいものとかありますか? 私そんなに料理上手くないけど、それくらい……」
私が尋ねると、彼は少しだけ眉を下げた。サラダを食べながらいう。
はっとして時計を見る。今朝は早起きして蒼一さんに朝食を作ろうと張り切っていたと言うのに、予定していた起床時間はとっくに過ぎていた。私は飛び上がってベッドから降りる。
寝室のドアを開けると、いい匂いがほのかに鼻についた。もしやと思い、急いでキッチンへ走っていく。
「あ、咲良ちゃん、おはよう」
やはりそこには、蒼一さんが笑って立っていた。ダイニングテーブルには朝食が置かれている。トーストにサラダや目玉焼き。知らなかった、蒼一さんって料理もできるんだ。
……ってそうじゃない! 私は一気に青ざめた。
「ご、ごめんなさい私寝坊して……! 朝食を作ろうと思っていたのに!」
形だけとはいえ嫁いだ身。それなのに、引っ越して早々寝坊し夫に調理させるだなんて。蒼一さんはもう今日から会社の勤めがある。そんな人に何をさせているんだろう私は!
彼はあははっと柔らかく笑った。
「昨日引っ越してきて疲れてるのは咲良ちゃんでしょ。今日は洋食にしちゃったけど、和食派だったかな?」
「い、いえ、どちらでも!」
「そう? 僕もどっちでもいいんだよね。冷めないうちに食べようか、顔洗っておいで」
そう言われ、まだ顔すら洗っていない状態で駆け込んでしまったことを恥ずかしく思う。私はなんとか頷くと、そのまま急いで洗面室へ向かった。
見知らぬ廊下を走り、見知らぬ洗面室で顔を洗う。違和感だらけだった。私は昨日初めてこの家に来たばかりで、家の作りすらうまく把握できていない。蒼一さんは私よりしばらく前から住んでいるらしいし、彼の家の離れなので私よりはわかっているだろう。
急いで簡単に身支度を整えると、蒼一さんが待っているリビングへ戻った。彼は食事を始めることなく私を待ってくれていた。こちらを見て優しく笑う。
その優しさだけでできているような笑顔にときめくと同時に、昨晩本当にただ隣で寝ただけで終わってしまったことを思い出した。一応結婚した男女が、同じベッドで寝てただ睡眠をとった、だなんて。
「食べようか」
言われてハッとする。慌てて彼の前に座り込んだ。
「すみません、私がやらなきゃいけないのに」
「いいんだって。はいいただきます」
手を合わせて丁寧に挨拶する彼の美しさに一瞬見惚れながら私も倣った。少し冷めてしまった朝食を口に運ぶ。まさか朝から蒼一さんの手料理を食べる日が来るだなんて。
ちらりと前を見れば、彼は何も意識していないようで涼しい顔してパンを食べていた。格好はすでにスーツを着ている。白いシャツが眩しいほどだった。私はすっぴんでパジャマだというのに。
「お、美味しいです」
「そう? よかった」
「蒼一さん料理も上手なんですね」
「やだな、目玉焼きぐらいで料理って」
目を細めて彼は笑った。何となくほっとして食事を進める。なんか変な感じだな、蒼一さんと二人きりで食事をするなんて。
「まだ咲良ちゃんは荷物片付け切れてないでしょ? 今日ゆっくりやればいいから」
「は、はい」
「もし僕の母とか来ても出なくていいから。今日は咲良ちゃんがゆっくりすること」
「は、はい……」
蒼一さんのお母様には昨日挨拶だけした。どこか冷たい視線で見られているのに気がついていた。蒼一さんがうまく場を切り上げてくれて少しの時間だったけれど、あれがお母様と二人きりとなれば辛すぎる。
私はきっと天海家の嫁として相応しくないって思われているんだろうなあ……。
「あ! あの蒼一さん、夕飯は何か食べたいものとかありますか? 私そんなに料理上手くないけど、それくらい……」
私が尋ねると、彼は少しだけ眉を下げた。サラダを食べながらいう。