片想い婚
「何を……!」
「僕は咲良と結婚したかった。今も彼女と結婚できたことが幸せでならない」
「は、はあ?」
「綾乃の逃亡を手伝ったのは僕です。綾乃がいなくなれば咲良が立候補するんじゃないかと考えた末のずるい行動ですよ」
ついに言った真実に、二人は目をまん丸にした。四つの瞳に見つめられながら毅然とした態度でいる。
特に母は信じられないとばかりにワナワナと唇を震わせた。
「まさか……嘘でしょう蒼一? あなたがそんな馬鹿なこと」
「知りませんでした? 僕はとんでもなく馬鹿な人間なんですよ。好きな子が嫌がらせに悩んでることに気づけないほどの」
鼻で笑って言いすてた。新田茉莉子が再度私の腕を取ろうと手を伸ばしたのを避ける。今はもう咲良以外に触れられたくない、と思った。
「そんなことをしてでも咲良と結婚したかったのは僕です。……結果あの子を傷つけただけだったけど、それも謝らなければ」
「待ちなさい! そんな、ありえません。他の男とあんな写真を撮られるような人じゃ」
母が叫んだのを聞いた瞬間、私は振り返って新田茉莉子の顔を見た。彼女は少し気まずそうに私から視線を逸らす。
……そういうことか。納得がいった。
おかしいと思った、いくら綾乃とタイプが似ているからといって、新田茉莉子を天海家の嫁にしようとするなんて。だが先ほどの母の発言を聞いて理解する。
恐らく、蓮也と咲良のあの写真を母に見せたのだ。元々あまりよく思っていなかった咲良のあんなシーンを見て、母は私たちの仲を裂くことに躍起になったんだ。
人間、共通の敵がいると特に強く結託する傾向がある。だから母はこんなにも新田茉莉子を信用しているのか。
私は一つため息をついて答えた。
「写真、ですか。僕も見ましたよ」
「あなたも知っているの? なのになぜ黙ってるの! 他の男とあんなことを」
「意外ですね。母さんほど洞察力のある人が、あれを咲良の不貞と思ったんですか?
写真をよく見れば分かります、咲良は驚いたように棒立ちになっているだけ。男性が一方的に抱きついているだけです。咲良には落ち度はありません」
「……な」
「頭に血が昇って冷静さを欠いているのでは。少しは落ち着いたらどうですか」
私はそばにいる新田茉莉子を強い視線で見た。彼女は何か言いたげだが、口をつぐむ。あの写真を手に入れた時から、こうなることを考えて動いていたのかもしれない。
私はつかつかと母に歩み寄り、彼女の手元に置かれている緑の紙を手に取った。はっとした相手は慌てて奪い返そうとする。それをサラリと避けると、私は離婚届をビリビリに破り捨てた。
「蒼一!」
「もし……咲良が本当に離婚を望んでいたとしても、僕のみてないところで書いたこんなものは無効だ。二人で話し、しっかりお互い気持ちを伝えた上で目の前で書いてもらう。こんなゴミ不要だ」
その場に紙屑を捨てる。再び母の方を向いて断言した。
「僕は人を陥れるような人間とは結婚しない。ごめんだね。
こうしてくだらない人間と話しているだけで吐きそうだ」
私はそれだけ言い残すと、今度こそリビングを飛び出した。自分の名を呼ぶ声を背中に感じたが無視した。
「僕は咲良と結婚したかった。今も彼女と結婚できたことが幸せでならない」
「は、はあ?」
「綾乃の逃亡を手伝ったのは僕です。綾乃がいなくなれば咲良が立候補するんじゃないかと考えた末のずるい行動ですよ」
ついに言った真実に、二人は目をまん丸にした。四つの瞳に見つめられながら毅然とした態度でいる。
特に母は信じられないとばかりにワナワナと唇を震わせた。
「まさか……嘘でしょう蒼一? あなたがそんな馬鹿なこと」
「知りませんでした? 僕はとんでもなく馬鹿な人間なんですよ。好きな子が嫌がらせに悩んでることに気づけないほどの」
鼻で笑って言いすてた。新田茉莉子が再度私の腕を取ろうと手を伸ばしたのを避ける。今はもう咲良以外に触れられたくない、と思った。
「そんなことをしてでも咲良と結婚したかったのは僕です。……結果あの子を傷つけただけだったけど、それも謝らなければ」
「待ちなさい! そんな、ありえません。他の男とあんな写真を撮られるような人じゃ」
母が叫んだのを聞いた瞬間、私は振り返って新田茉莉子の顔を見た。彼女は少し気まずそうに私から視線を逸らす。
……そういうことか。納得がいった。
おかしいと思った、いくら綾乃とタイプが似ているからといって、新田茉莉子を天海家の嫁にしようとするなんて。だが先ほどの母の発言を聞いて理解する。
恐らく、蓮也と咲良のあの写真を母に見せたのだ。元々あまりよく思っていなかった咲良のあんなシーンを見て、母は私たちの仲を裂くことに躍起になったんだ。
人間、共通の敵がいると特に強く結託する傾向がある。だから母はこんなにも新田茉莉子を信用しているのか。
私は一つため息をついて答えた。
「写真、ですか。僕も見ましたよ」
「あなたも知っているの? なのになぜ黙ってるの! 他の男とあんなことを」
「意外ですね。母さんほど洞察力のある人が、あれを咲良の不貞と思ったんですか?
写真をよく見れば分かります、咲良は驚いたように棒立ちになっているだけ。男性が一方的に抱きついているだけです。咲良には落ち度はありません」
「……な」
「頭に血が昇って冷静さを欠いているのでは。少しは落ち着いたらどうですか」
私はそばにいる新田茉莉子を強い視線で見た。彼女は何か言いたげだが、口をつぐむ。あの写真を手に入れた時から、こうなることを考えて動いていたのかもしれない。
私はつかつかと母に歩み寄り、彼女の手元に置かれている緑の紙を手に取った。はっとした相手は慌てて奪い返そうとする。それをサラリと避けると、私は離婚届をビリビリに破り捨てた。
「蒼一!」
「もし……咲良が本当に離婚を望んでいたとしても、僕のみてないところで書いたこんなものは無効だ。二人で話し、しっかりお互い気持ちを伝えた上で目の前で書いてもらう。こんなゴミ不要だ」
その場に紙屑を捨てる。再び母の方を向いて断言した。
「僕は人を陥れるような人間とは結婚しない。ごめんだね。
こうしてくだらない人間と話しているだけで吐きそうだ」
私はそれだけ言い残すと、今度こそリビングを飛び出した。自分の名を呼ぶ声を背中に感じたが無視した。