わたしのカレが愛するもの
当然「ない」という返事を想定していた。
大学は冬休みだし、久しぶりに帰国したので、年末年始は実家で過ごすと言っていたから。
ところが、コウくんは「あ」と目を見開き、「言うの忘れてたんだけど……」と言い出す。
「実は来週から、研究所の元同僚たちが四人ほど、休暇を利用して日本へ遊びに来ることになってるんだ」
「元同僚……って、海洋生物研究所の?」
「うん」
今年の春まで彼が籍を置いていた研究所は、世界各国から優秀な学者たちが集まることで有名。
社交的な彼のことだから、気の置けない友人がたくさんできただろうことは想像に難くない。
「四人とも日本に来るのは初めてだから、観光もするけれど、仕事もする予定。海洋学部のある大学、海洋開発を進めている企業、保護活動をしているNPOのプロジェクトとか、担当者から話を聞きたいと言われてて、仲介役を頼まれてるんだ。俺も興味があるし、一緒にあちこち出かけるとになると思う」
「そう、なんだ……久しぶりに会うんでしょう? 楽しみだね?」
何とか笑みを保ち、そう言ってはみたけれど、顔が引きつる。
これがモデルの仕事の最中だったなら、一発で「NG」が出ただろう。
「うん。楽しみだよ! 四人が来日したら、ちぃも会ってみない? みんな気さくだし、すぐに友だちになれると思うよ?」
コウくんの誘いは、社交辞令ではない。
わたしも一緒に楽しめると本当に思っているのだろう。
でも、わたしは彼とは正反対で、幼い頃から人見知りしがち。
打ち解けた話ができるようになるまでは、かなり時間が必要だ。
行きたくないという気持ちが湧き起こる。と同時に、わたしの知らないコウくんの話を聞いてみたいという気持ちも湧き起こる。
コウくんは、急かしたりせず、わたしの返事をじっと待っている。
(結婚したら、コウくんのお友だちともお付き合いすることになるんだし……いい機会かも?)
しばらく迷った末にコクンと頷くと、コウくんは嬉しそうに笑った。
「実は、婚約したって報告したら、ちぃに会わせろってうるさくて。むこうにいる時、ちぃのことよく話してたから、興味津々なんだよ」
「わたしのこと?」
「うん。すごく大事な幼馴染で、いままで、ちぃよりカワイイ子に巡りあったことがないって言ってたから」
「ちょっとコウくん! そんなわけないでしょ? わたしよりカワイイ子なんてたくさんい……」
「いないよ。ちぃが一番カワイイ」
「……うそ」
「嘘じゃない……」