わたしのカレが愛するもの
いくらもともと整った容姿を持っていても、日々の積み重ねがなくては「最高の状態」を維持することはできないからだ。

ランウェイを颯爽と歩くためのウォーキング術、完璧なウォーキング術を披露するための毎日のストレッチや体力づくり。メイクが映えるように、肌の手入れをし。肌の状態を良好に保つために、食事に気をつけ、規則正しい生活をする。
さらには、いついかなる時も、カメラの前で最高の笑顔を見せられるように、メンタルを整える。

ただし。
そうして積み重ねたものを発揮し、披露する機会が必ず「ある」わけではない。

実力ではなく、コネや伝手、デザイナーやスポンサーの一方的なゴリ押しで仕事を奪われることもあれば、逆にもらうこともある。

理不尽なことは当たり前の世界。モデル仲間はみんな、厳しい現実を何度も思い知らされ、それでもプライドを持ってモデルという仕事を続けている。


『言うじゃない。コウの前では、猫被ってるってわけね。彼、守ってあげたくなるような子が好きだものね。……でも、』


モデルとしてのプライドが反撃させたけれど、嘲笑を浮かべたエルサは、たったひと言でそんなわたしの反撃も無効にしてしまった。


『コウに、まだ抱かれてないんでしょ?』

『え……』


図星を指され、驚くわたしに、エルサは容赦なくトドメを刺す。


『幼馴染だった期間が長すぎて、いまさら女として扱うのが難しいって言ってたわ。別の女ならいくらでもイチャつけるけど、相手が千陽だと躊躇するって』

『…………』


コウくんが、わたし以外の女の人とそういうことをしていた、と知ったショック。
わたしのことを「女」として見るのが難しいと思っている、と知ったショック。
そして何よりも、彼女にそんなことを話していたと知ったショックに、身体も心も凍りついた。

まさかコウくんがそんなことを言うはずはないと信じたかったけれど、ついさっきまで、気心知れた友人同士である様子を目にしていては、信じ切れなかった。

心のどこかで、そうなんじゃないかとずっと思っていたことだったから、なおさら否定できなかった。


『海にいるときのコウは、陸にいるときの何十倍も魅力的なのよ? そんな彼を知らないくせに、自分こそ彼に相応しいと思うなんて傲慢じゃないの?』

『…………』

< 18 / 47 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop