わたしのカレが愛するもの
『まあ、それでも、コウがいいと言うんだから、しかたないのかもしれないけれど。どうせすぐに「陸」に飽きて、「海」へ出たくなるわ。だから……くれぐれも、邪魔しないでよね?』
彼女が言いたいのは、コウくんの邪魔をするなということではない。
わたしが一緒には行けない「海」の上で、濃密な、充実した時間を過ごす「彼ら」を邪魔するなと言いたいのだ。
わかった、と言いたくなんかなかった。
そっちこそ、わたしとコウくんの邪魔をするなと言ってやりたかった。
けれど、彼女の言葉がまるっきり嘘ではないとわかっていたから、熱い塊が喉を塞ぎ、何も言えなかった。
その場の張り詰めた空気を破ったのは、呑気なコウくんの声。
『ちぃ! タクシー来たよ!』
エルサは、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、廊下の先にある玄関を指し示した。
『お帰りは、あちらからどうぞ』