わたしのカレが愛するもの
ステキなレストランで食事をして、薔薇の花束なんかを贈られて。
わたしがしたような寝起きに不意打ちのプロポーズではなくて、ダイヤモンドの指輪と一緒に「Will you marry me?」なんて言われちゃって。
もちろん「Yes!」とか叫んじゃって。
飛びついて、抱き着いて、キスして、そのまま押し倒されて、大人の扉を開ける……そういう展開になってもいいはずだった。
それがまさか、こんな寂しいクリスマスを過ごすことになるなんて。
(現実は、思ったようにはいかないものよね……)
人生の悲哀をヒシヒシと感じながら五杯目のシャンパンをグビグビと飲み干したところで、誰かが体当たりしてきた。
「千陽ぅ? こんなところで何してんのよぉ? コウくんとデートじゃなかったの?」
どう見ても楽しんでいるようには見えないはずのわたしの様子を思いきり無視し、地雷を踏み抜いた酔っ払いは、モデル仲間の梨々花だ。
その背後には、つい先ほどまでフロアで、お子さまのわたしにはとても直視できないような際どい絡みを披露していた男性が二人、付き従っていた。
ひとりは駆け出しの俳優か何かで、もう一人はミュージシャンだっただろうか。
「ごめーん、この子と女子トークするから。またあとでね?」
梨々花は、お肌もっちもちの色白ベビーフェイスに、女同士でもキュンとしてしまいそうな笑みを浮かべて手を振る。
男性二人組は、ほかにも獲物はいるし、とあっさり去っていく。
彼らが次の女の子に声をかけるのを見ながら、梨々花は「チッ」と舌打ちした。
「ったく、あの程度の胸板で『オレ、鍛えてるんだよね』なんて言ってんじゃねーよ。おととい来やがれってんだ。バーロー」
おじいちゃん子で生粋の江戸っ子である梨々花は、どうやらどちらもお気に召さなかったらしい。
「梨々花、筋肉フェチだもんね」
「理想は、火消しみたいな『いなせな男』だってのに、周りにはヒョロヒョロしたナルシストしかいないんだから……」
(火消し? いなせ? 生まれる時代をまちがったのでは……)
「千陽のコウくんは、どうなのよ? 海の男なんでしょ?」
「海の男……まあ、大雑把なくくりで言えばそうなるけど……」
わたしの幼馴染で婚約者の彼――立見 幸生こと「コウくん」は海洋生物学者だ。