わたしのカレが愛するもの
第四章
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わたしの話を聞き終えた梨々花は、鼻の頭にシワを寄せた。
「わたしを上回るヤな女ね、そのアリサだかエルサだかって女。コウくんは、そんな性悪女に奪われたってわけか」
「う、奪われてないっ! ……まだ」
「時間の問題でしょ。このままだと」
「…………」
どーんと落ち込むわたしの肩を抱いた梨々花が、とんでもないことを言い出す。
「でもさ、考えようによっては、よかったんじゃない? この機会に、コウくん以外の相手と付き合ってみれば? いくらでも紹介するし」
「は?」
「比較検討って、大事よ?」
「比較検討……」
「そう。選択の余地が一つしかなければ、『選ぶ』ことにはならないでしょ」
「え、でも……」
「そこにあったから、取り敢えず手に取りましたってこともある。極端な話、好きじゃなくても、生理的に受け付けない相手以外なら、付き合えるし、セックスもできるし、結婚もできるものだと思うし。しかも、相手が千陽みたいな美女なら、プロポーズされて断る男はいないでしょ」
「うっ……」
普通なら褒め言葉だが、いまのわたしにとっては胸に突き刺さり、致命傷を与える凶器だ。
「ま、わたしが男なら、いくら美女でもこんな面倒くさい女はヤだけど」
「め、面倒くさいって……」
「ワガママを言う女よりも、言わない女の方が面倒くさいじゃない? たいてい、ワガママを言いたいけれど我慢しているだけで、察してほしいと思っているんだから」
「うっ……」
図星だ。
この一か月、ほとんど放置されていた状態にもかかわらず、わたしはコウくんに「クリスマスは帰って来てほしい」とか、「お正月は一緒に過ごしたい」といった、望みを何一つ伝えていなかった。
地図と一緒に「いまココ」と書かれた、現在地を告げるだけの素っ気ない近況報告にも、「楽しんできてね」とか「気をつけてね」とか、「飲み過ぎないでね」とかそんな「イイ子ちゃん」のメッセージを返すだけ。
「いつ帰ってくるの?」とは、一度も訊かなかった。
唯一の反抗は、メッセージと一緒に送られてきた、四人で仲良く――しかもコウくんの横にエルサがひっついた状態で――ひしめきあっているところを撮った写真を削除したことくらい。
いままで、密かに……もしくは堂々と撮ったコウくんの写真は、一つ残らずクラウドストレージに保存してあったから、断腸の想いで葬った。