わたしのカレが愛するもの
「いままで、遠距離でも耐えられていたんだから、同じ日本にいるんだし、大丈夫だと思われてるんでしょうね。でも、逆なのよねー。遠く離れていれば、会えなくてもしかたないと諦めがつくけれど、近くにいたらどうして会えないんだ! って思っちゃうものなのよね」
梨々花の的を射た言葉に、思わず彼女の肩を掴んで揺さぶってしまう。
「そう! そうなのよぉー! どんどん欲張りになっちゃって……」
将来の約束をして、それなりに恋人らしい時間も過ごしていて、満足できるはずなのに、食べたらやめられなくなるお菓子のように、「もっと」と思ってしまうのだ。
幼馴染だった頃なら我慢できたことが、恋人――婚約者というこれ以上はないくらい、望ましい肩書きを得たいまは、我慢できない。
年に数回しか会えなかった六年間を思えば、週に三日も会えるなんて贅沢すぎる。
それなのに、毎日会いたくなる。
甘いまなざしを注がれる日を夢見ていたのに、それだけじゃ満足できなくて、甘い言葉も聞きたくなる。
手を繋ぐだけでも嬉しかったはずなのに、キスをしてほしくなる。
キスだけで、幸せな気分になれると思っていたはずなのに、キスより先。もっと深く、熱く、結びつく方法を知りたくなる。
「独占したい、わたしを優先してほしい、そういうものでしょ? 恋なんて」
「でも、いつでもそうしてほしいってわけじゃない……。コウくんには好きなことを好きなだけしてほしいと思うし、コウくんが楽しそうなら、それでいいかなって思うし……」
一緒にいてほしい。
何よりも、誰よりも、魚よりも優先してほしい。
けれど、わたしのためにコウくんが好きなものを我慢しなくちゃならないなら、それは何だかちがう気がする。
「じゃあ、恋じゃないんじゃない?」
「えっ!?」
二十五年も想い続けた末に、実は恋ではありませんでした、なんて笑えない展開だ。
そんなはずはないと慌て、うろたえるわたしに、梨々花は苦笑した。
「もう、恋は通り越して愛になってるんじゃないの? だから、千陽の妄想するようなめくるめく恋人同士のナンタラはなくって、穏やかで、ひだまりのようにほのぼのした関係になっちゃうんでしょ?」
「……でも、イチャイチャしたい」