わたしのカレが愛するもの


忘れもしない、あれはわたしが高校二年生。コウくんが高校三年生で、卒業間近のバレンタインデーのこと。

コウくんの弟で、わたしのスパイ第一号である晴旭(はるき)くんから、律ママと尽パパはデート、彼も彼女とデートだという極秘情報を手に入れた。

願ってもいない絶好の機会。

わたしは手作りチョコを持って立見家に押しかけた。

一世一代の大勝負に出ようと思ったのだ。



『脱・幼馴染!』は、わたしの長年の悲願だった。



それまで、コウくんには何度も告白していた。


「コウくん、好き!」

「ぼくも、ちはるちゃん好き!」

「コウくん、大好き」

「ぼくもちぃのこと、大好きだよ」


といったやり取りは、事あるごとに、数え切れないほどしてきた。

でも、幼馴染みから一歩も先に進めなかった。

そもそも、幼馴染といっても、わたしたちは毎日会えていたわけではない。

小学校は学区がちがい。中学高校はわたしが女子校、コウくんは男子校だったので、お互い予定が合う時に会っていた(もちろん、わたしの予定はすべてコウくん中心に立てていた)。

できれば同じ大学に通いたかったけれど、コウくんが進学する先は、超難関の私立大学。

たとえまぐれで受かっても、わたしの頭では授業についていけず、卒業できないのはわかり切っていたので、端から追いかけるつもりはなかった。

そのため、彼がサークルだの合コンだので、才色兼備の肉食女子に食べられてしまう前に、何としても「恋人同士」になりたかったのだ。


『一歩と言わず、大人の階段を駆け上ってみせる!』


並々ならぬわたしの気合いと思惑も知らず、何の警戒心もなく家に上げてくれたコウくんは、エンゼルフィッシュを象ったチョコレートをとても喜んでくれた。

ホワイトデーのお返しをいま欲しいとねだってみたら、ニコニコ笑って「いいよ」と言ってくれた。

だから、この日のためだけに特注した、エンゼルフィッシュ柄の下着を披露すべく張り切ってブラウスのボタンを外していったのだが……。


『ちぃ? 真冬に下着姿になるなんて、風邪ひくからやめようか』


と、怖いくらいの真顔で言われ、せっかく外したブラウスのボタンをきっちり一番上まで留め直された。

そして、「せっかくだから、デートしようか」なんて外へ連れ出され、もはや定番と化していた水族館デートをし、イルカとシャチのぬいぐるみを買ってもらい……うやむやになった。


「エンゼルフィッシュ柄の下着はどうかと思うけど、高校生で据え膳に手を出さないなんて……。コウくん、悟りでも開いてる?」

「わからない。けど、コウくんの、ガツガツギラギラしたところは、見たことない」

「なんか、ものすっごく会ってみたいんだけど」

「ほんと? じゃあ、今度紹介するね。コウくん、わたしとちがってとっても社交的だから、誰とでもすぐに仲良くなれるし」

「誰とでも、ねぇ……」


< 24 / 47 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop