わたしのカレが愛するもの
梨々花は何か腑に落ちないことでもあるのか、眉間にしわを寄せ、腕組みして考え込んでいたが、不意に鞄から取り出したものをわたしに差し出した。
「千陽、メイク直した方がいいわよ。コレ、ジョージから貰ったサンプルなんだけど、すっごくイイから使ってみて?」
「いいの?」
「まだ家にどっさりあるから、あげる」
「ありがと」
コウくんとのアレコレを話している間、涙ぐんで鼻を啜っていたので、どっさり渡されたサンプルを持って化粧室へ向かう。
鏡映った顔は、悲惨とまではいかないものの、美しいとは言い難い。
一度、メイクを落とし、土台から作り直すことにした。
落ち込んでいても、メイクをしてきちんと服を着て、お気に入りのハイヒールを履けば、ちょっとは気分が上向く。
そう教えてくれたのは、母の友人で、仕事でも度々お世話になっている自称カリスマ美容師、ヘア&メイクアップアーティストのジョージさんだ。
彼の魔法の手で、どんどんキレイになっていく女性を何人も見てきたし、わたしも何度かお世話になっている。
彼のような出来映えとまではいかないが、及第点は貰えそうな仕上がりに満足して梨々花のところへ戻ると、背の高い男性が二人、彼女を挟んで談笑していた。
二人の男性のうち一人は顔見知り。
ジョージさんだ。
「千陽」
「ジョージさん! なんでココに……?」
「さっき、梨々花から連絡もらったのよ。たまたま近くにいたから、千陽の顔を見に寄ったの。元気にしてた?」
海外のファッションショーにも呼ばれる彼は、一年中、世界中を飛び回っている。
帰国した際には、必ず夕城家に顔を出してくれているが、わたしが会うのは久しぶりだ。
「はいっ! いま、梨々花にジョージさんがくれたサンプルを貰って、さっそく使ってみたんです」
「どれどれ……うん、なかなかいいわね。ルージュは、昼はもうちょっとトーンが明るいほうがいいわね。ところで、立見家の長男と婚約したんですって?」
「あ、はい……」
「それなのに、寂しいクリスマスを送っているんですって?」
「はい……」
「それで、浮気相手を探してるんですって?」
「は……えっ!?」