わたしのカレが愛するもの
「大体のところは、梨々花から聞いたわ。わたしも、彼女の意見に賛成よ。ちがう男性とお付き合いしてみれば、色んな気づきを得られると思うのよね。ちょうどここに、うってつけの男がいるから紹介させてもらうわ。コレ、昴。売れない俳優よ」
「売れないは余計だって」
「事実でしょうが」
「せめて売り出し中にして」
ジョージさんが紹介してくれた男性は、年齢は同じくらいだろうか。
茶髪に甘い顔立ち。俳優というのも頷けるイケメンだ。
初対面、のはずだけれど、どこか懐かしいような、よく知っているような、不思議な感覚に見舞われる。
(なんだか、見覚えのあるような……? スバルって名前も……)
「昴は、このとおりイケメンだし、恋愛経験も豊富だけれど、相手の合意なしにどうこうするような鬼畜ではないから、安心して」
「裏を返せば、合意を取り付けるのが上手いから、相手が流されて思い通りにできるということでしょ?」
梨々花の鋭い指摘に、ジョージさんはニヤリと笑う。
「その通りだけど、それを言っちゃあおしまいよ」
「裏も表もないよ。いまは特定の彼女を作る気はないし。でも、半分従兄妹のよしみで協力してもいい」
「え? 従兄妹?」
思いもよらぬ単語が彼の口から飛び出し、目を瞬く。
売れない俳優の彼は、芝居がかった仕草で腕を広げ、大げさに嘆いた。
「まさか、まったく憶えていないとか? そりゃ、最後に会ったのは二十年近く前だけど、冷たすぎるだろ!」
「昴って……もしかして、ハジメ伯父さんの息子の?」
二十年近く前と聞いて、ようやくピンと来た。
「そう。半分従兄妹の流星 昴だよ」
記憶の底にあった小さな男の子の面影が、目の前の彼に重なる。
どうりで懐かしいと感じたはずだ。
「憶えていなかったわけじゃないから! だって、昴くん、ずっと海外にいて……大人になってから会うのは初めてだし……」
昴くんの父、ハジメ伯父さんは、母の異母兄だ。
イケメンで、女性の扱いにも慣れている彼は、母にとってよき相談相手。彼の勤め先はわたしの父がトップを務める会社なので、家族ぐるみでのお付き合いがあった。
しかし、わたしが小学校へ入学する前の年、伯父に転勤の命が下り、流星一家はロンドンへ引っ越してしまった。
独占欲過多束縛大魔王の父の陰謀(嫉妬)だったと思われる。