わたしのカレが愛するもの
昴くんも彼の双子の姉たちも、すでに小学校へ通っていたため、当初伯父は単身赴任を考えていたらしいが、脚本家である奥さんの「家族は一緒にいるべきでしょ」というひと言で、一家そろっての渡英となった。
三年後、再び人事異動が発令されて、伯父夫婦と双子の姉妹は日本へ戻って来たが、昴くんはむこうの生活が肌に合ったようで、全寮制学校に入ってひとり英国に残った。
その後、卒業しても日本には戻らず、あちらで生活していたため、すっかり疎遠になっていたのだ。
「ずっとって言うけど、何度か帰国してたんだけど? 俺が千陽ちゃんに会いたいと思って夕城家を訪ねる時に限って、千陽ちゃんは出かけていて、タイミングが合わなかった」
「え? そうだったの?」
「ああ。不思議なくらい、いつもすれ違ってた。偲月さんが言うには、朔哉さんの策略らしいけど」
「……パパならやりかねないわ」
伯父に対し、無駄に敵対心を燃やす父は、大人げないことをしがちだ。
「でも、俺は別の人間の策略だと思うけどね」
「別の人間?」
わたしにはさっぱり心当たりがないが、昴くんにはあるらしい。
しかし、その正体を明かしてくれる気はないようで、「とりあえず、」と話を戻した。
「千陽ちゃんの要望をまとめると……超箱入りのまま婚約して結婚したくない、恋人同士の気分を味わいたい、そういうことだよね?」
「え、いや、あの」
「一応、これでも俳優だから、ちゃんと恋人役を演じてみせるよ」
そう言った昴くんは、いつの間にかオーダーしていたホワイトレディをわたしに差し出す。
「再会に」
「……う、うん」
キリッとしつつ、ほどよく甘さも感じるカクテルは、大人の女を思わせる。
「そんな警戒しないでよ。近況報告もまだなのに、いきなり何かするつもりはないから」
朗らかに笑う昴くんの様子に、胸を撫で下ろす。
人見知りのわたしにとって、半分従兄妹であるというだけで、昴くんはとても話しやすい相手だ。
けれど、「恋人ごっこをしよう」と言われ、「はい」とあっさり頷けるほど、心を許しているわけではない。
「千陽ちゃん、いまモデルをしてるんだよね? 偲月さんみたいに、結婚後も続けるの?」
「うん。しばらくは、続けるつもり」
コウくんは家を空けることが多いと思われ、待つだけの生活は悶々としてしまいそうだから、可能な限り仕事は続けるつもりだった。
「幸生って、独占欲強そうだけど、よくOKしたね?」
「え? コウくんは、独占欲強くはないと思うけど?」