わたしのカレが愛するもの
第五章
「ひとのものに、勝手に触らないでくれる?」
頭上から降って来たのは、どんな騒音の中でも聞き分けられるひとの声。
(コウくんっ!?)
振り返って確かめたいが、腰に回った腕にがっちりホールドされて、動けない。
「ひとのものだっていう証拠、どこにもないけど?」
昴くんの視線が、わたしの左手に注がれる。
結婚前提のお付き合いなので、一応婚約したことになっているが、結納もしていないし、エンゲージリングも貰っていなかった。
プロポーズしたのはわたしだし、特に必要がなかったから、コウくんに欲しいとも言っていない。
「目に見えるものだけで判断すると、痛い目に遭うよ」
「幸生こそ、言葉にしなくてもわかってくれているなんて、独りよがりなことを思っていると、痛い目に遭うぜ? どうせ、ちゃんとしたプロポーズもしてないんだろ。だから、千陽ちゃんはずっと不安なんだろ」
(そのとおり……)
二十年ぶりに会ったばかりだというのに、少ない情報でそこまで読んでしまう昴くんに、脱帽だ。
さすが、ハジメ伯父さんの息子。女心をよくわかっている。
コウくんは、そんな昴くんに対し、わたしを抱く腕に力を込めてきっぱり言った。
「とっくの昔に、プロポーズしてるよ」
(いつっ!?)
「いつだよ?」
「俺が三歳で、千陽が二歳の時」
「は?」
(え? そんな昔? っていうか、記憶ない……)