わたしのカレが愛するもの
「朔哉さんにもちゃんと許可もらったし」
「子どもの頃のプロポーズなんて、無効だろ。第一、千陽ちゃんは返事したのかよ?」
「うん、って言った」
「…………」
(まったく、記憶にございません……。プロポーズの記憶がないなんて……わたしの……わたしの……わたしの、バカーっ!)
いくら二歳だったとはいえ、とても印象的な出来事だったはず。
それを欠片も、微塵も憶えていない自分の記憶力のなさを恨んだ。
「千陽ちゃんは憶えていないみたいだぞ? やっぱ、無効だろ」
百面相をしているわたしに、昴くんは呆れ顔で言う。
しかし、コウくんは自信たっぷりに宣言した。
「憶えていなくても、あの場にいた全員が証人だから。ジョージさんも、憶えてますよね?」
「もっちろん、憶えてるわよー! ほんっとに可愛らしい一幕だったもの」
にっこり笑って、コウくんの言葉を裏付けたジョージさんに、昴くんは首を振る。
「でも、本人が覚えていないなら、無効でしょう?」
「そうねぇ……そこは、大事なところよね」
「じゃあ、もう一度すればいいんだ」
そう言ったコウくんは、わたしの口を塞いでいた手を離し、わたしの身体をくるりと回転させて向き合った。
「……スーツ?」
そこにいたのは、滅多に見かけないスーツ姿でいつもくしゃくしゃな髪もきちんと整えているコウくん。
イケメン具合が三倍マシになっている様子に驚き、見惚れているわたしの手を取って、耳元で囁く。
「ちぃ、結婚して?」