わたしのカレが愛するもの
「ちがうってば! ちゃんと新しいものだから! 色は黒で、ブラックベールテール・エンゼルをモチーフにしてて、レースのリボンを鰭っぽく付けてもらって、大人カワイイんだからっ!」
毎年、新調しているエンゼルフィッシュをモチーフにした下着たち。
今年は、デザイナー自ら「いままでで一番の出来だわ」と言うくらい、渾身の作品となっている。
しかし、そんなわたしの熱い主張に対し、梨々花は冷たくひと言。
「それ、結局エンゼルフィッシュでしょうが」
「…………」
「まあ、でも……脱がせるの、楽しみでしょー? コウくん?」
酔っ払った梨々花がグリグリとその背を突く。
コウくんはちらりとわたしを振り返り、咳払いをし……コクリと頷いた。
「よかったわね? 千陽。ドン引きされなくて!」
梨々花にバシッと思いきり背中を叩かれ、唇を尖らせながら、心の中で叫ぶ。
(問題は、そこじゃないの! キスから先にどうやって至るかが、問題なのよーっ!)
エレベーターが一階に到着し、ビルを出れば、コウくんが待たせていたらしいタクシーがいた。
わたしとコウくんが乗り込み、ドアが閉まる直前、昴くんがニヤリと笑って手を振る。
「こんな楽しいものを見られるなんて、やっぱり帰って来てよかったよ。いつでも相談に乗るからね? 千陽ちゃん」
「ありが……」
「一生帰って来なくてよかったのに」
わたしにお礼を言う間も与えず、そう吐き捨てたコウくんは、手ずからドアを閉めた。