わたしのカレが愛するもの
第二章
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「ね、コウくん。どっちがいい?」
「んー、どっちでもいいよ。ちぃの好きな方にすれば?」
「もーっ! ちゃんと考えて!」
「ちゃんと考えても、どっちでもいいんだよ」
「…………」
溜息を吐く代わりに、熱帯魚たちへ餌やりをしている広い背を睨む。
いつもと変わらぬ休日。
リビングの中央にそびえる大きな水槽に、色とりどりの熱帯魚が泳ぐコウくんのマンション。
わたしが眺めているのは、彼と同じ「魚」ではなく旅行会社のパンフレットだった。
来春の結婚式のあと、新婚旅行に出かけることは決めていたが、肝心の行き先が決まらない。
わたしの希望は欧州か北欧なのだけれど、コウくんは米国以外ならどこでもいいと言う。
どこでもいいと言われると、かえって決めづらい。
「あ、でも、南半球の島なら、イルカやクジラと泳いだりできるよ? 時期的にハワイがいいかな」
振り返ったコウくんは、目をキラキラさせている。
「……わたし、カナヅチなんだけど」
(そして、グラビアアイドルじゃないから、水着で日焼けとか厳禁なんだけど)
「大丈夫。カナヅチでも人間は浮くようにできてるから」
「そういう問題じゃないし!」
「浮き輪を使ってもいいんだし」
(そこは、ぼくが一緒に泳いであげるよって言うところじゃないのっ!?)