わたしのカレが愛するもの
テーブルのセッティングを終えたコウくんが、ワインをグラスに注いでくれて、とりあえず乾杯。
さっそく、できたてアツアツのラザニアを二人同時に頬張る。
「すっごく美味しい!」
本当に美味しそうな顔で言われ、嬉しくも照れくさい。
「も、お世辞はいいってば。律ママのお料理の方が美味しいでしょ。でも、ありがとう」
「母さんの料理は、毎回味がブレブレだよ? 材料も分量もテキトーだから、予定していたものとまるでちがう料理ができあがるのは日常茶飯事だった」
「それでも美味しい料理が作れちゃうのが、主婦の技でしょ? わたしなんて、レシピ本見ながらじゃないと作れないもん……」
「あれは、主婦の技というより力技。麻婆豆腐に豆板醤を入れすぎたこともあってさ。晴旭も俺もひと口でギブアップしたけど、父さんは全部食べてたな。残すとあとが怖いって」
「それは、尽パパの愛でしょ。照れかくしの軽口だよ」
コウくんのお父さんで、立見総合病院の院長である尽パパは、わかりやすく甘々なことはしない。
けれど、律ママを見る目はいつも優しくて、とっても愛しているのがよくわかる。
「まぁね。あの人たち、いまでも二人きりになるとイチャついてるみたいだし。この間、連絡し忘れて実家に帰ったら、ソファーでキスしてるところに遭遇して、びっくりしたよ」
「なんで? ステキじゃない!」
「何ていうかさ、外国だとおじいちゃんおばあちゃんでもフツーにキスするから気にならないんだけど、日本で、しかも自分の親って……ちょっと気まずくない?」
「そんなことないよ。うちのママとパパもキスしてるし。うちの場合、ほとんどパパが一方的に襲ってるけど」
コウくんの感覚の方が普通かもしれないけれど、うちでは両親、祖父母とも、イチャついているのが通常運転。そうでない時は、喧嘩中。
それも、たいてい一晩経つと仲直りしていて、輪をかけてイチャイチしている。
「あー、朔哉さんは見た目からして、甘そうだもん。でも、うちの父さんは厳ついとまではいかないけど、髭面で優男ではないから」
尽パパは、某ハリウッド俳優のように口周りと顎もしっかりお手入れが必要な由緒正しい?髭面をしている。
ベースの顔立ちは、コウくんによく似たイケメン。優男タイプではないが、男の色気というものを感じさせる大人のイイ男。
律ママが、キスしたくなるのはよくわかる。
「確かに、尽パパは優男って感じじゃないけど、コウくんそっくりでイケメンだし、髭も似合ってるよ。コウくんも髭生やしたら、尽パパみたいにセクシーになるかもね?」
「……ちぃ。いきなりそういう発言するの、やめて! セクシーになりたいとは思ってないから!」
抗議するコウくんの頬は、赤い。
酔っているからではなくて、照れているからだ。
(ひとのことは息をするように褒めるくせに、自分のこととなると照れ屋なんだから……)