未知の世界7
目を開けて見慣れた白い天井でないことだけで、心が軽くなる。
周りを見回すと、数年前に来た本当に懐かしい部屋。
そう、ここは…
前回の留学でお世話になった孝治さんのお父さんとお母さんの家。
そして、ここは私の部屋。
あの時と何も変わらない部屋に、なんだか実家というものに帰ってきた気がする。
実家なんて、私にはなかったのに…
ちらっと脳裏に施設が思い浮かぶ、すぐに消えた…
部屋のドアを開けて、廊下に出る。
ここも懐かしい…
リビングのドアを開けると、広いソファにジャクソン先生、お母さんがコーヒーを飲んでいる。
『あら、起きたのね。よく眠れた?』
というお母さんに、ボーっとした頭で
「はい…」
と答え、お母さんのそばへ行く。
近くにあった膝掛けを、私の肩に掛けて背中をなぜてくれる。
『退院おめでとう。よく頑張ったわね。』
お母さんから優しく声をかけて、
「ありがとう…お母さん。」
かすれた声で答える。
『何か温かいものを飲んで。
少ししたら、お祝いのご飯にしましょ。』
「はい…あ、でも、白湯にしようかな。」
何か飲んだら、ご飯が食べられなくなってしまう。
まだ、食欲は万全じゃない。
お母さんから出された白湯を飲み始めると、
ガサッ
と目の前に置かれた大量の薬。
「うっ……」
忘れてた…この薬。
入院中は点滴からも薬が入っていたので、大量の薬を飲んでる気がしなかったけど、
いざ退院すると…
私から消えて離れない薬たち。
『気持ち悪くなりそうな量だけど、少しずつ減らそう。』
薬を出してきたジャクソン先生が、薬のカプセルを開けていく。
少しずつ飲み進め、飲み終わるころには、腹六分目。
『頑張った、頑張った!』
頭を撫でられ、若干満足する私。
『ジャクソンは、かなのお兄さんみたいね。』
お母さんにそう言われて、ジャクソン先生は嬉しそう。
『まさか、自分の大切な親友の子供が、佐藤たちの子供と結婚するなんて、思ってもなかったよ。』
お母さんと話すジャクソン先生。
『孝治が君と一緒じゃなかったら、僕が大事にしてあげたのに…』
どこか寂しげな、そして意味ありげな言葉を呟くジャクソン先生に、
『何言ってんのよ、歳が離れすぎ!』
笑いながら突っ込むお母さん。そして、
『あなたが見てるのは、かなちゃんじゃないわ…』
『……そうかもしれないね。』
何を言っているのか、すぐに分からなかったけど…
たぶん…ジャクソン先生は私の実のお母さんのことが好きだったんじゃないかな。
お母さんに似ている私を見て、お母さんのことを思い出したのか…な?
前に病院でそんなことを言っていた気がする。
ぼんやり覚えてる記憶だけど…。
『だからかなちゃん、気にしないで、このおじさんのことは。』
なんて、お母さん。知った仲だから言えるんだろう。
『かな、日本が嫌になったら、孝治が嫌になったら、いつでも僕のいるアメリカに来るんだよ。』
と真剣な眼差しで、でもどこか冗談で呟くジャクソン先生。
返答に困っているら私に、
『変なこと言わないの!』
とお母さんが突っ込んで笑いになった。
そのあと食卓に並んだお母さんの料理を、三人で楽しく、ジャクソン先生は完全に酔っ払い、時に私に絡みながら、日が変わる頃には、眠りに着いていた。