未知の世界7

『かな…』





「ん?」





空港で大量の荷物を預け終わり、手荷物を確認していると、上からジャクソン先生に声を掛けられる。





『こっちに残ってもいいんだよ。
何かあっても治療はスムーズに行くし、仕事だって、技術面でもっと勉強できるんだから。』





さっきまでふざけたことを言って陽気だったジャクソン先生は、今までに見たことのない真剣な顔。




「えっと…でも、私は日本の医師で…
それに、孝治さんもいるし」





と、その瞬間っ!




「ん!?」




気づくと、力強く抱きしめられていた。




「ジャ、ジャクソン先生!?」




こっちに来て、何度もジャクソン先生からの熱い抱擁は受けてきたけど、慣れてきたけど…



熱いというか、この後何か危険なことが起きそうなくらいな勢いのジャクソン先生に、ジタバタしながら抵抗する。





『…帰らないで…欲しい。』





泣きそうな顔で、私の頬を両手で包むジャクソン先生。





いや、そんなことを言われても…
私は研修のために来てるわけで…




そんなことを口に出して言えない状況で困っていると。





『なーに言ってんのよ!』





と、そばにいたお母さんが突っ込む。





『私の前で何言ってんのよ!




かなちゃんは私の娘なんだから、そんなことは許しません!』





そう言いながらジャクソン先生の肩を思い切り叩くお母さん。





それと同時に手が離れる。





はぁ、助かった…





『前にも同じことをしたわよね?ジャクソン…』





溜め息混じりのお母さん。




『前は…』




というと私の頭をゆっくりなでる。





『あなたとあなたのお母さん、お父さんが日本へ行く際の空港…そう、この空港で。



お父さんがいない間に…



でも、私の目の前で。』




最後は呆れたように。




『ジャクソンはあなたのお母さんのことを、ずっと好きだったのよ。
あなたのお父さんが、あなたのお母さんを好きになるずっと前から…



だから、二人が亡くなってからも、ジャクソンは自分の気持ちの行き場がなくて…




あれから20年以上も経って、あなたがお母さんそっくりになって戻ってきて。





はぁ…





研修にやってきた日本の女の子に、ジャクソンが楽しそうに、目を輝かせて指導してるって




日本にそんな話が流れてきてね…。





それから、あなたの親友のたけるくんにも聞いたのよ。





それが少し気になって、私が目を光らせて、ここにやってきたのよっ。』





腕を組みながらジャクソン先生を睨みつけるお母さんの目の奥は、どこか面白おかしく。




『変わらないジャクソンに呆れてしまったけど、ホッとした気持ちもあるわ。』






全てを私の前でバラされたジャクソン先生は、恥ずかしそうにしながら?
いや、むしろ開き直った態度になり、





『かなぁ、僕の気持ち、全然気づかなかった?』





「えっ?えっ?」





お母さんの今話したことが、まさか推測でなくて事実だとは思いもせず、戸惑いが隠さずにいると。





『僕は今、かなにすごーく恋してる。』





うぅ…本気で……





オロオロしている私に、ジャクソン先生は私の頬を再び包み、





私の額に





チュウ




っと吸い込まれるくらいの大きさキスを落とした。





『バカ!』





とジャクソン先生の額はお母さんに叩かれると、ようやく離れてくれた。





その顔は、まるで孝治さんの顔と重なり、ジャクソン先生の行為よりも、孝治さんの顔を思い出され、ゾッとした。







べっとりとした額を拭きながら、ジャクソン先生に向く。






「本当にお世話になりました。
ありがとうございました。




ジャクソン先生の気持ちは、全く気づきませんでした。





でも、今お母さんから聞いて…





やっぱり私はジャクソン先生ではなくて、孝治さんのことが改めて好きなんだなって、思いました。




なので…




ごめんなさい、ジャクソン先生。」






と頭を下げる。





そして上げると、





『あぁ…あの時と変わらないな…』





そう言いながら、涙を流すジャクソン先生。





お母さんを見ると、うんうんって頷きながら涙を堪えてる。





そうか…20年以上前に、ここで同じことが起きた時、お母さんも同じことを言ったんだ。




私は知らないところで、お母さんから受け継いだものがあったんだ。




そう思うと、ここにこれてよかったと…心から思えた。






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