未知の世界7

スタート


「おはようございまーす。」





久しぶりに戻ってきた小児科医局。






懐かしいコーヒーと印刷物の匂い。





机に積まれた資料、毛布が敷きっぱなしのソファ。







首にタオルを巻いて、歯磨きしながらテレビ観ている当直明けの先生。







私の声で一番に駆け寄ってきたのは、そう、高校時代からの後輩、直子。









『せんぱーい!』







タックルされるんじゃないかってくらいの勢いで、私の目の前で急ブレーキする直子。






『アメリカ研修、お疲れ様でした!





たくさん勉強になりましたか!?』







キラキラしたでかい目で私を見つめて来る直子は、本当に可愛い。








「うん、とても勉強になったよ。





私とたけるがいない間、一人で大変だったでしょ?





ありがとう。」







『それが、先輩のお休みの間に、私より若い子が入ってきて…なんと、私に後輩ができましたっ!』








テンションハイな直子は、声のボリュームを落とすことを知らない。







「そ、そうなんだ。それはよかったね。






今は?」






部屋の中に新人そうな先生はいない。







『今は他の科に研修中です。』






そういうことね。







『またゆっくり、研修の話を聞かせてくださいね』







「うんうん、休みが合えば、一緒にランチでも行こうね。」







そんな会話をしていると、次々と先生方が出勤されてきた。







『はよーさん。今日から復帰だな。』







私の隣の席の、そして主治医の…石川先生。






もう指導医ではないけど、いろんなことを教えてくれる、バリバリに働く色黒強面の石川先生。






「はいっ、よろしくお願いします。」







『はい、じゃあ次のこれ。』







そう言われて渡されたのは…そう。







いつもの大量データの入ったUSB…






たけるとそれから今は直子もこれを共有している。






「あ、ありがとうございます。」







『あれ?顔色悪いかな?
今日は健診の日にしようか?』







「ちっ、違います!」






『そう?』






と笑いながら首に聴診器を掛けて、さっそく回診に行く石川先生。






まだ子供たちは寝起きだったり、ご飯だったりするけど、それが石川先生流。







私も、同じように担当の患者さんの元に行きたいところだけど、いなかった分、引き継ぎもあるし、その前に医局長にもご挨拶がいるので、そのまま机で事務仕事を始めた。
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