未知の世界7
『今日はお酒を注がないように、気を遣わないように。
そのために和食屋さんだけど、立食パーティー、そしてビールもお酒も自分でつげるようにドリンクバーにしたからね。
今日は無礼講でいいかなー!?』
医局長のその一言で、全員がドリンクバーに向かって自分のドリンクを用意した。
この歓送迎会がうちの医局のやり方のようで、全員が慣れた手つきで呑んだり食べたり始めた。
こんな上司や部下とか、先輩、後輩とか関係のない飲み会は初めて…
みんなから遅れるように、私もドリンクバーへ。
もちろんソフトドリンクだけど、さすがそろえてある飲み物は品揃えがすごいし、どれも果汁100%。
そして至る所に置かれたテーブルには、続々と食事が並べられていく。
ただ最初からあるのではなく、順番に出てくるので、私みたいに時間を置いた食べ物を食べられない人でもいけそう。
って、もう私もそんなに気にしなくてもよくなっていくんだけど…たぶん。
医局にいる先生方って、こうやってみると全然普通の人。
白衣を着ているから医者だけど、お酒飲んでる姿なんて、誰も医者とは思わないんだろうな。
やごな病院に関わってから、こんな先生方の姿を始めた気がする。
プライベートを知ってるのは、幸治さんや進藤先生くらいで。あの二人は完全にプライベートでも私には医者だからな。
開始10分でみんなアルコールの入り方が半端ない。もう呂律の回らない人もいる。
普段呼び出しに備えて、こんな風に飲めないから、今日みたいに呼び出しがないとわかってる日には、こんなになるまで飲むんだ。
いいな、私もお酒飲んでみたいな。
ドリンクバーのメニューに飽きてきたな・・・。
なんて思って、アルコールのバーに行ってみる。
ビールに焼酎に、ハイボールにカクテル・・・
目移りしそうなほど。
『おーーっい!!』
背中に聞こえた声に振り替えると、
『なに呑もうとしてんだよっ。』
足早に私の方へずんずんと向かってくるのは、私の体を熟知している
石川先生・・・・・・・。
『少しずつ食事制限も緩くはなってくるけど、酒はやめとけ。』
そういいながら持っているビールジョッキを空にして、そのままビールバーでビールをなみなみ次ぎ始めた。
「いや、その、呑もうとしていたわけではありません。」
『呑むならこっちにしとけ。』
そう言って、隣のバーへ行き、小さめのグラスに氷をたくさん入れて、そこにカクテルのような色の濃い液体に、
炭酸水をたっぷり入れて、かきまぜた。
『ほれ、これなら呑めるから。』
そういって、私にグラスを渡し、持っていたビールを『乾杯』と言って吞み始める石川先生。
これはお酒ではないんだよね。と疑いながら口にする。
「おいしぃ!!」
これは前に数回いったことのある居酒屋で出てくる、ノンアルコールカクテル!?
こんな風に作れるんだ、と感心しながら、他の種類も見ると、梅酒やらカシスやらみんなが呑むアルコールと同じ種類がたっくさんあった。
『結構甘めにできてるから、呑みすぎはよくないけどな。それでも、普段食事制限を頑張ってるんだから、今日くらい大丈夫だろ。』
と言いながらまたビールを空にする石川先生の顔色は、変わらない。
どんだけ強いんだろうか。普段、呼び出しもあるから、きっと呑めないでいるだろうに。
『今日は無礼講だって言われたろ?なら、上司と部下でもなく、医師と患者でもなく、男と女として、
ほら、こっちに来て一緒に呑むぞ。』
そう言われて腕を引っ張られ、連れていかれた先には、椅子が丸くなっておかれていた。