未知の世界7
第二章
心筋生検
翌朝からはまたいつも通りの仕事。
こうやって何もなく過ごせていることが、どれだけ幸せなのか。
二人の後輩くんたちは直子の指導により、朝の準備もカルテの整理もとても役に立って助かっている。
夜遅くにならないように、吸入ができるようにと、二人が一生懸命になって私の仕事を手伝ってくれる。
私もこの子たちのために何かしなきゃと、分からないことは丁寧に教えている。
一緒に小児科病棟を回ってみたり、外来に出てみたり、二人ともとても熱心に仕事をしている。
「二人はもう小児科に決めたの?」
研修は全て終えて、小児科に戻ってきてはいるけど、まだ変更可能な時期。
もしかしたら違う科に行きたいのかもしれない。
『決めました。小児科にします。』
一人がそういうと、もう一人も同じ気持ちのようで、大きく頷いている。
「小児科の決め手はなに!?」
『この病院の先生方はどこの科も優しい方ばかりですが、小児科が一番優しいなって感じたのも一つです。
それだけじゃなくて、子供たちの病気を治すっていうことがどれだけすごいことなのか、先生方の技術を見て感じました。』
『僕は、石川先生や佐藤先生、そしてかな先生のように、小児外科を目指したいです。』
二人とも目を輝かせている。
『そんなこと言ってー、本当は先輩がいるからでしょー』
近くにいた直子が口を挟む。
『えっ!?えっ!?やめてくださいよー』
まんざらでもなく、顔を赤らめた。
やれやれ、みんなお世辞でも嬉しいわ。
そんな軽い気持ちで聞いていたら、
『ぁあ?何だって?』
「『うわっ!』」
私も二人の後輩も一緒に声を上げた。
後ろにドスの効いた声を発したのは孝治さん。
『誰が誰をお気に入りですか?』
うぅ…冗談言ってるのに、怖すぎる…
『ご、ごめんなさいっ!』
二人の後輩は声を裏返して謝る。
『ははは、馬鹿だなぁ二人とも。
かなに近づくと、佐藤先生から殺されるよー。
それに、かなの家臣は僕一人で充分。
君たちには僕みたいな苦労をさせられないよ。』
く、苦労っ!?
『まぁそうだな。
たけるくらい万能でないと、かなの動きにはついていけないだろうな。
俺が認めるのはたけるだけだな。』
若干優しい顔には戻っているものの、後輩二人の顔は引きつったまま。
そしてそれ以上、小児科を目指す理由についての会話はなくなった。