未知の世界7
『ちょっといいか?』
仕事が終わりカルテの整理をしていると、石川先生に声を掛けられる。
「はい、今行きます。」
机の上にある聴診器を首に掛けると、
『それはいいから…』
あっ…
つい癖で、電話で病棟から呼ばれた時には必ず聴診器を首に掛けるので、今もやってしまう。
『それが必要なのは俺だ。』
ん?
そう言いながら石川先生は首に自分の聴診器を掛けて立ち上がった。
相談室かなぁと思っていたけど、すぐ医局を離れて、
ついて行ったところは検査室。
吸入?
機械の前はスルーされ、診察室へと向かう。
だよね、だって毎日欠かさずしてるから、
カーテンを開けて診察室は入ると、丸椅子に座るように促される。
黙って座る。
『まずはこれ。』
そう言われて渡される体温計。
「え?熱?」
『そうだ。』
「ないですよ。」
体温計を持ったまま答えると、
『いいから脇に挟めって。』
そう言われて白衣を脱ぐと、着ていた術衣の脇元に入れる。
体温計を測っている間に、サッと私の手を取っていく石川先生。
酸素濃度や血圧やテキパキと進めて行く石川先生を、ただ見つめる。
石川先生って、救急の先生みたい…手際が良い。
『はい、見せてみろ』
鳴っている体温計を渡す。
『聴診させて』
体温には一切触れずに、聴診を促される。
『はい、吸ってー』
という石川先生の声がまるで催眠術のように聞こえてくる。
『おい、ちゃんと合わせて呼吸しろ』
あ、つい、眠ってしまいそうだった。
催眠術のような声に、ボーっとしてしまった。
いつも通り長い聴診を受けた後は、健診のようにエコーに心電図。
『まだ帰れないぞ。』
服を整える私は、これで終わりかな…と思っていると、石川先生に忠告される。
『これやらなきゃダメだろ。』
カートの上にいつのまにか置かれた採血セット。
「えっ!?」
『えっ!?じゃない。
近いうちに検査を控えてるんだぞ。』
そう言われて再び丸椅子に座る。
『これ終わったら、検査結果出るまで点滴してろ。』
「えっ!」
『ほら、まだ佐藤先生は仕事してるだろ?終わるまでだから。ゆっくり寝てろ。』
すばやく終えて採血セットを片付けた石川先生は、立ち上がる時に私の頭に手をやる。
『小さい頭で考え過ぎたんだよ。
少し休め。』
腕には点滴がつけられている。
そのままベッドに、点滴を付けながら横になるとすぐに目を瞑った。