未知の世界7

発作となぞの痛み

『じゃあ聴診するから』




布団をめくられている間、重たい手を動かして、ボタンを開けていく。





思うように行かない…





モタモタしてると、石川先生に手をどかされて、あっという間にボタンを外されていく。






『こうやって寝てるだけで筋肉は衰えて行くからな。熱が下がったら少しでもベッドの上で運動することだな。』







「はい…」








『じゃあ、息吸って…吐いて…





喘息がはっきりと聞こえる…発作の後だから無理ないな。






後で吸入用意するから。』











そのまま聴診がずっと続いていく。









すごく眠い…けど、寝てしまったらまた発作が…







と思うとハッと目が覚める…石川先生の診察はまだ
終わりそうにない。








また眠くなってくる…でも、寝たらダメ!






そんなことを繰り返していると、診察は終わっていた。






『じゃあ吸入するからな。』






知らない間にやってきていた看護師が、テキパキと吸入を用意する。






『あとは俺がやっておくから』






そういうと再び二人になった。







眠いけど眠れない状態の私の口にマスクが当てられる…






プチッ






とスイッチが入ると、






  

「ゲホゲホ!ゲホッ!ゲホゲホゲホゲホ!」






吸入でむせる人って今まで自分の患者さんで、みたことない…なのになんで私ってこんなに蒸せるんだろ。






『ほら、しっかりしろ』





背中を強くさすられる。






それでも、苦しい…






『ゲホゲホっ!ゲホゲホ!ハァハァハァハァ』







さっきの発作の恐怖で、手はマスクを外そうとする。






『やめろって。今頑張んないとまた発作出るから』






私の隣に座って、両手をしっかり固定される。







つい苦しくて石川先生の体にもたれる。








『あと少しで終わりだから、このまま頑張れ』








励まされていると、吸入は終わり、







「ハァハァハァハァ…」





私の荒い呼吸だけが残った。






マスクを外されて頭を撫でられる。






まるで子供のように…






「ハァハァ…苦しかった」






『これで少しは発作も抑えられるな。』








もう体が限界…とベッドに横になる。







「はあー」








と目を瞑ろうとするけど、ハッとして、目を覚ます。









このまま寝たら、発作起きて怖い…








その格闘はまだ続いていた。









『やれやれ、さっきからさっさと寝たらいいのに。』







私を見ていた石川先生。









「…そうなんですけど…」








この気持ちはわかんないよ…元気な人には。








ムスッとしていると、左手がギュッと暖かくなる。




ん?





と手を見ると、両手で私の手を包み込んでいる石川先生。








『佐藤先生にはなれんけど、怖がらずに寝かすことはできる。』







ぶっきらぼうに言ったあと、







『子供はこうやったら寝てくからな…』








って…私、大人です…








こっちが恥ずかしくなるんじゃないかって思うくらい、ジッとこちらを見て、ギュッと手を握る石川先生。








さっきまでの恐怖がどこかへ消えかけている。








「…もし寝てる時になったら…」








『大丈夫だからっ!今日はよく見に来るから。』





その言葉にすっかり安心して、目を閉じた…

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