未知の世界7
いつも一人で歩く廊下。今日は後ろからいとてつもない圧力を感じながら車椅子に乗っている。


途中、それに気づいた看護師さんから『代わりましょうか?』と言われ、お願いします!という私の心の声は、



『いや、俺が行く』の言葉でかき消された。



無言と力強く押され、外にも聞こえてくるほどドキドキと高鳴る心臓。



レントゲン室へ到着して、担当の技師さんに代わってもらい、ドキドキは落ち着いてきた。



技師さんに促されて、レントゲン室の台にあおむけになる。




『両手を上げてくださいね。』



ゆっくり上げていく両手。怖くてあまり上がらないところに、技師さんに手を押され



ぃたっ!



つい顔をゆがめて心の中で叫ぶ。




痛みは我慢できるけど、荒くなる呼吸。




「はぁはぁはぁ」




『あぁ、痛くてしんどいですよね。すぐ撮影しますね。』




技師さんにはわかっているのだろう、私の今の状態を。





少し一人になった後、



『はい、終わりましたよー』



背中をゆっくり支えてもらって起き上がる。




それにも慣れている技師さん。涙が出そうなくらい優しい。




これから起こる恐怖の尋問が待ってると思うと、ずっとここにいたい・・・



と思う。




『はい、戻るぞ。』




現実に引き戻される。




そのまま1階のレントゲン室近くの相談室へ連れていかれる。




相談室の机にピッタリと車椅子をつけられる。




反対側に座る石川先生の手には、タブレット。それを慣れた手つきで触っている。




さっき撮ったばかりのレントゲン写真を確認しているんだろうな。




「はぁ」




今から起きることについ溜息を出してしまい、慌てて口を閉じたけど、遅かった。




『何が「はぁ」だっ!』




ドン!




と机を叩く石川先生に、びくっとしたと同時に体が動いて、




うっ!!





激痛が走る。




『だから、そうやって我慢するなって散々言ってるだろ?』




だって、いちいち怖いから・・・




『ほら、見てみろ』




出されたタブレットを確認すると、左の肋骨が見事にしかも、第五、第六肋骨がずれてる。




というかこれを折れているというのだろう。




どうりで呼吸するのもしんどい訳だ。




『こんなひどくなってる。発作だけでこんなことになるはずがないぞ。本当はいつからなんだ?』




「え?」




発作前・・・・?





考えてみても肋骨を怪我するようなことって・・・あった??




「いや・・・発作前に何か怪我なんてなかったと・・・」




『ほんとか?ただせき込んだだけではないと思うけど。』




再び考えてみるとけど、思い出せない。




だって、心筋生検のことで頭がいっぱいで、他のことなんて、、、




『どこかにぶつけてないか?』




相変わらずムスッとした顔の石川先生。



この顔、小児科の子供たちには絶対しないくせに。



なんて考えてると、



『自分のことだろ!ちゃんと考えろ』



また大きな声で怒鳴られる。



廊下まで響いてるに違いないこの声。



はぁ、溜息が出そう。



「全然、思い出せそうにありません。」




『ボーとしてるからだぞ。いつも言うだろ?自分の体を大事にしろって。』




そうです、毎回言われています。




「・・・・・ごめんなさい。」




すぐに謝ると怒られるから、これは最終兵器としていつもとっておく。



とにかく謝罪。



『だからっ!謝るんじゃなくて、毎度毎度、こうならないようにちゃんと自分の体のことを大事にして、ちょっとしたことでもちゃんと言え!』






はい・・・・毎度毎度、それも言われてます。




「はい」




それ以上私は石川先生の顔を見ることはできなかった。




そこから車椅子を押され、病室に戻るのかと思っていると、整形外科に連れて行かれ、これからバストバンドを装着すると言われ、カーテンを閉められた。




整形外科の男性医師と石川先生と女性看護師さんの付き添いで、整形の先生の指示のもと、石川先生がバストバンドを準備している。




「上半身を出しますので、上の服を広げますね。」



前に立つ看護師さんが丁寧に服を脱がしてくれる。




はぁ、同業者相手でも、この中央に傷ついた胸元を見せるのも嫌なんだな。




『早く言えば、こんなことにならなかったんだぞ。不貞腐れて。』




後ろに立つ石川先生に一言。看護師さんは苦笑い。




確かに、ひびの入った時点ならこんなことにはなっていない。けど、気づいたらこんな状態なんだもんな・・・




『では、手を上がるところまであげてください。石川先生は後ろからバンドをお願いします。』





私は痛みがないところまで腕を上げていく。




後ろから抱かれるように石川先生がバンドを広げ、私の背中につける。



『じゃあ、息吸って』



石川先生に言われたとおりに。『吐いてー』



と言われたとおりに息を吐く。と同時にバンドを巻かれる。




「ゲホッ!ゲホゲホっ!!」



緊張のあまり、咳をして、締め付けていたバンドがはがれてしまった。



ちょうど石川先生がバンドをつけようとしたときだったようで。




顔を少し後ろに向けると、にらみをきかせている石川先生。




ごめんなさい。




再び、石川先生の声でバンドは装着されて、息苦しさも痛みも多少はなくなっていた。






















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