未知の世界7
整形外科から病室に戻る途中もずっと無言の石川先生は、かなりご立腹のようで。




廊下ですれ違う知り合いの看護師さんが、私の顔を見て、「やっちゃったのね」



という顔で見ている。




はぁ、嫌になっちゃう。




廊下ですれ違う看護師さんが、電子カルテワゴンをもっていた。




「あ・・・」



そういえば。



『どうした?』



そういえば、あの時・・・・



『だから、どうした?』




と聞かれているときは、病室についていた。





「いや・・・なんでもありません。」




あの時、ワゴンでぶつけてるかも・・・



だけど、あのことは内緒にするっていう約束。




『あのなぁ、お前はまたそうやって黙って。さっき言っただろ?』




う~ん、こういう時は・・・




「いえ、あの・・・大したことでもないのですが。」




『大抵、大したことだけどな。』




「はは。



さっきワゴンを見て思い出したんですけど。




二週間くらい前にワゴンにおなかをぶつけたことがあったような・・・気がして。」




あったんだけど、詳しく聞かれないように。。。



『気がして?ぶつけたんだろ?』




「た、たぶん・・・」




『その時はそれでどうしたんだ?』




私がおなかをぶつけた以上にその時のことが濃厚すぎて・・・




「痛みが続くっていう訳ではなかったので、そんなことをすっかり忘れてました。」




『あのなぁ、そういうところだぞ。そういうことがあったなら、まずは俺、佐藤先生でもいいし、進藤先生でも、主治医がたくさんいるんだから、誰かに言えただろ?』





いえ、言えるわけないでしょう。言ったら、仕事を休んで検査になるにきまってるでしょう。




『医者と患者の信頼関係。俺たちはお前が正直に話してるって信用したいのに、何も話さないし、誤魔化してばかり。




もっと言えよなぁ』






「・・・・・言えませんよ。」





黙っているつもりがつい、反論してしまった。




『なんで?』




「いえば、仕事休まされて検査して・・・怒られて。いつも見られていて。」




『自分で症状を申告してくれたら、そんな監視することもないんだけどな。




だけどな、怒られるからっていうのはよくないと思うけど。』





「何言っても怒られるから。」





『俺は怒りたく怒ってるんじゃない。




大体、今回だって、自分からいうように何度も俺が仕掛けてるだろ?』





「そんなことありました?」





『自分から言えたら、別に怒るなんて、今までなかったと思うけどな。まぁ、ほとんど、自分で言わないからそういうこと自体なかったがな。』





「・・・・・・。」





『佐藤先生も知ってるから。あとは自分で言えよ。』






「えっ!!!」





『そりゃそうだろ。俺がここに来る前に、今朝診察してくれた循環器の先生が、医局まで来て俺たちに説明してくれたんだ。』





「なんて!?」




『今朝の回診で痛がっていた気がする。と』




「はぁ」




バレてたか・・・




『隠そうと思うな。患者なんだから、言わないより言った方が、いや言わなきゃならないぞ。』




そりゃそうだけど・・・・・





早く仕事に戻りたかったけど、それも先になりそう。



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