女の恋愛図鑑
あたしはもう、ごまかすのが嫌だった。
大也ごめん。あたしはあなた自身を好きだった訳じゃなくて、あたしの中の色んな愛しい人に見立てて、満足してただけだよ…
だなんて口が裂けても言えない。あたしはそんな馬鹿正直じゃなく、卑怯な人間だよ。
大也が思ってるより、ずるくて、惨めかもしれない。
あたしは大也とさよならすべきだ。
文化祭が始まる。大也は劇の主役をやる。
それが終わったら、ちゃんと言おう。
まだ半月ある。さて、どうしようか。
大也の優しさに触れるたびに、胸が痛む。
大事にされる実感が、余計あたしを追い詰める。
好きになりたい。なりたい。なれたら、どんなに楽だろう。
めちゃくちゃ傲慢な自分に、腹が立つ。
「頑張るから、見てて。」
大也はそう言って舞台に向かう。
その姿は、神々しいくらいカッコよくて非の打ち所がない。完璧だ。
…けど、何が足りないのだろう、どうして好きじゃないんだろう。
違う。何かが足りないんじゃなくて、あたしと大也が違っただけなんだ。
ということは、大也にはあたしじゃない誰かが合うんだろうな…
どっちも、惜しい事をしてるね。
劇を見終わった頃には、心から涙が流れた。