女の恋愛図鑑
彼には専ら幾つかの噂が絶えない。
「女嫌い」
はたまた
「ゲイ」
多感な男子中学生が女の子と半年経っても一向に打ち解けないのは、理由はこのどちらかしかない。
と、みんなは高をくくっていた。
半年経ってあたしの思いは目の保養からすっかり恋に変わってしまったので、そろそろ動き出さずにはいられない。
そして気付かされる。どうして彼は女の子と打ち解けないのかを。
体育の授業で男子が50m走の学年ランキングを測ったその日、廊下に張り出された1位の名前に釘付けになった。
長野くんだったのだ。
容姿に恵まれ、スポーツの才能にも彼は恵まれていた。
あたしが男だったらその逆で生きるのは辛いと思う。
あたしは良いネタだと思った。
彼に近づいて、声を掛ける。
半年間温めた思いが、はちきれそうになるのを抑えて。
「長野くん、1位おめでとう。」
彼は最初驚き大きな目であたしを捉えてパチパチする。
そしてすぐに目をそらした。
「ありがとう。」
と彼は控え目な声でつぶやいて、下を向いてしまった。
あたしは自分の高揚した心が一瞬萎んだのを感じて、彼を良く観察した。
彼の頬、それだけでなくて全体がみるみるうちに赤くなる。