それは鎖のように《短編》
彼から離れたい。去りたい。自由でありたいと何度思ったことか。
やろうと思えばできたはず。でも、できなかったんだ……。
私が彼から刻まれた跡を見つめていると、一服終えた彼が私のもとへとやって来ては隣に座る。そして、優しくそれを指でなぞっては、目尻を下げ悲しげに言う。
「僕はまた、君を傷つけてしまった。ごめん」
優しく、優しく私の頭を撫でて抱き寄せる。
「本当にごめん」
さっきとは全く別人のように弱々しく悲痛な面持ちを見せる。まるで割れ物を扱うように優しく、優しく包み込んでくれた。
「痛かったよな?苦しかったよな?」
彼の腕からそっと離れ、彼と目を合わす。
弱々しい彼の顔を見るのは、これで何度目だろうか。
そう思いながら彼の頬にゆっくりと片手を添えて、私は言う。
「大丈夫」