天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 まさか兄さん達が、ここまでなーんにもできないなんて。思ってもいなかったよ。

 兄さん達ってば声をそろえて、
「だって、家のことは全部藤助がやってたから」
 だってさ。

 確かに藤助兄さんは、家のこと、全部一人でやってたんだよね。尊敬しちゃう。

 だって私は、今日一日で、すっかりくたくただもん。使い古された雑巾の気分だ。

 それでもどうにか家の中の掃除が終わって、あとは夕食作りだけだけど。

「牡丹、俺、肉じゃが食べたーい!」

「なにを言ってるんだ、ビーフシチューだろう」

「どっちも却下です!」

 梅吉兄さんが、「えー!?」と一際大きな声で不平を言うけど、こういう時は、やっぱり、
「今夜はカレーです!」
 私はきっぱりと言い返す。

 だけどカレーといっても、トマトチキンカレーだけどね。

 トマト缶を三分の一くらいまで煮詰めないといけないから、今の内から火にかけて……と。それからチキンストックも取らないと。今日は時間がないから鶏肉と白コショウだけを煮込んだ物を使うけど、これだけでも十分出汁が取れるんだ。

 さて。トマト缶と鶏肉を煮てる間に、具となる野菜を切らなくちゃ。

 とはいえ七人分のカレーを作るとなると、やっぱり大変だ。だってその分、たくさん具材を切らないといけないんだもん。

 私は目の前に用意した野菜の山に、ついめげそうになったけど……。それでも気合を入れ直すと、ひたすら皮をむいては食べやすい大きさに切っていく。

 こうして野菜を切り始めてから数十分が経過するけど、でも、野菜の山はちっとも減らない。こんな調子で、いつ完成するんだろう……。考えるだけで、げんなりだ。

 だけど、やるしかない。野菜の山に向き直った私の隣に、ふと、すっ……と人影が現れた。
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