天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 こうして兄さん達が手伝ってくれたおかげで、野菜の山はすっかり消えた。これで下準備は終了だ。

 鍋にすりおろしたショウガとニンニクを入れ、一、二分炒めたら、玉ネギを加えて透明になるまで炒めるの。……うん、このくらいでいいかな。

 次はジャガイモとニンジン、煮詰めておいたトマト缶の中身とチキンストックを入れて。それから、ひよこ豆に、出汁を取る時に使った鶏肉を炒めておいた物も加えて……。

「あっ、そうだ。芒は甘口の方がいい?」

 それならルーを入れる前に分けないと。

 そう思って芒に訊いていると、
「あの」
と背後から声がかかった。振り向くと、ばつの悪い顔をした菖蒲兄さんがいた。

「牡丹さん、その、僕も……」

「僕も……? えっ、菖蒲兄さんも甘口ですか?」

 菖蒲兄さんは薄らと頬を赤く染め、
「辛い味付けは苦手なんです」
と言った。

 へえ、意外。菖蒲兄さん、辛いの苦手なんだ。ちょっとかわいい。

 私は心の中で思いながら鍋の中身を取り分けた。

「最後にルーを入れて、弱火でまた少し煮込んだら……、トマトチキンカレーのできあがり!」

 七人分作るのは時間もかかって、とっても大変だったけど。でも、みんなでこんな風に料理するのは楽しかった。

 藤助兄さんってば、本当にすごい。だって、こんな生活が毎日なんだよね。

「にしても、牡丹って料理できたんだな」

 食卓についたみんなは、私のことを褒めてくれる。それは、うれしいんだけど……。

「このくらいできて普通です。兄さん達ができなさ過ぎなだけです」

 本当、全部藤助兄さん一人に任せて。兄さんがいない時は、どうしていたんだろう。

 そう思う傍ら、私にはもう一仕事残ってる。

 私はさっさとカレーを食べ終えると、もう一度、キッチンに立った。
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