天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
「すみません、ありがとうございました。いやあ、妹がどうしても親父に会いたいって常日頃から思い耽ってるものですから。
 それと、こんな俺達を慰めてくれるかわいい女の子も絶賛募集中!
 あっ、お父さん達も一緒にどうですか? 先程の奮闘している様子、良かったですよ。それに加えて経済力でもアピールして、仕事の疲れを癒してくれる素敵な愛人でも……って、いたっ!? おい、藤助。なにすんだよ」

 しかめっ面をさせている藤助兄さんが、梅吉兄さんの耳を思い切り引っ張った。

「生放送の全国ネットで恥ずかしい真似をするんじゃない! それと、他の家庭を崩壊させるような助長をするな! 番組の主旨を覆させるなよ」

 その上、
「おとなしくしてないと、しばらく夕飯抜きにするよ」
と天下の宝刀まで抜いた。

「ははっ、天正家は大変にぎやかですねえ。お父さん、早く帰って来てくれるといいですね……。
 えー、それでは気を取り直しまして、みなさんのご希望の賞品はこちらになります」

 司会者の声に合わせ、スタジオに賞品が載せられた台が運ばれて来る。

 まだ耳を引っ張られている梅吉兄さんがそれを指差して、
「藤助、分かった、分かったから。冗談に決まってだろ、おとなしくするって。ほら、お前の欲しがってた掃除機だぞ」

「もう。そんなのでだまされないぞ……って、あーっ! 夢にまで見た、ダイリンのサイクロン式掃除機だーっ!! 
 あ、あの! 少しだけ試してみてもいいですか?」

「ええ、どうぞ。ぜひお手に取ってみてください」

「うわー、すごい、すごいっ! いくら使っても本当に吸引力が変わらないや。コードレスだし、これで掃除が楽になるぞ」

「そうでしょう。こちらの製品は主婦の皆様必見のおすすめ商品なんですよ」

「いいな、いいな……!」

 藤助兄さんの意識は、完全に掃除機へと移ったようだ。

「みんな、絶対にゲットしようね!」
と兄さんは人一倍きらきらと瞳を輝かせる。

 そんな一人やる気に満ちあふれている兄さんを余所に……。

「やっぱり藤助って、華の男子高校生としてちょっとずれてるよな」

「はい。あんなうれしそうな藤助兄さん、初めて見ました」

「たかが掃除機に、あんなに目を輝かせるなんて。弟の教育、間違えたような……」

「それより俺はプレッシャーが……」

「そうですね。兄さんのためにも、ゲームをクリアしないと……」
と小さな円を作り、ひそひそとささやき合う私達は自然とプレッシャーをかけられていた。
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