天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
「さて、天正家の八人中四人が成功し、折り返し地点となりました。続いてのチャレンジは、スラックラインです」

「えっと、スラックラインって……?」

 なんのことだろう。首を傾げる私達を余所に、スタジオには機材が運ばれる。二本の柱の間に幅三センチ、長さ十五メートルくらいの細長いナイロン製のテープが、床から膝丈くらいの高さの所でぴんと真っ直ぐに張り渡される。

 スラックラインとはスポーツの一種で、要は綱渡りのことみたい。テープの上を歩いて行って向こう側まで渡り切れたらチャレンジ成功。チャンスは三回、落ちたらスタート地点からやり直しというルールだ。

「俺がやる」

「えっ、菊がやるのか?」

 菊はこくんと小さくうなずくと、そのまま前に進み出る。スタートの合図とともに宙に張られたテープの上をすたすたと、まるで普通の地面の上を歩いているのと変わらない調子で進んで行き――。簡単そうに反対側まで渡り切った。

 特になんの盛り上がりを見せる暇もなく楽々とクリアしてしまい、
「もう少し愛想良くしろよ」
と梅吉兄さんが声をかけるけど、やはりいつもの無愛想顔のまま、菊はふいと顔を背けた。

「はっ、ははっ……。またしてもあっさりとクリアされてしまいました。
 では続きまして、ガンシューティングゲームです」

 その声に合わせ、今度は大きな機械がスタジオに運ばれて来る。ゲームセンターでよく見かけるアーケードゲームだ。

「ステージは全部で三つ。全てクリアできればチャレンジ成功です。なお、このゲームはお二人での参加となります」

「まだ参加してないのは道松と梅吉、それと牡丹だよね。一人は……」

「もちろん俺がいく」
と藤助兄さんの言葉を遮って、道松兄さんが名乗り出る。

「そんじゃあ、もう一人は俺で決まりだな」

「えっ、梅吉兄さんですか?」

「なんだよ。俺じゃあ不満なのか?」

「いえ。そういう訳じゃあ……」

「まあ、見てなって。なあに、お兄ちゃん達を信用しなさい」

 そう言うと梅吉兄さんは、ぽんぽんと私の頭をなでた。

 だけど私の不安が消えることはない。

「藤助兄さん、本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫って、なにが?」

「だってあの二人、仲悪いじゃないですか。見てくださいよ、ほら」

「観覧席のお姉様方、声援お願いしまーす!」

「おい、梅吉。真面目にやれ!」

「なんだよ。黄色い声があった方が番組的にも盛り上がるだろう」

「なにをバカなことを言ってるんだ。余計なことに構ってる暇があれば集中しろ!」

「ほら。始まる前からもうケンカしてますよ」

「うん、確かにね。でも、なんだかんだ気が合うんだよなあ」

 くすくすと小さな笑みをこぼしながら、藤助兄さんはふわりと笑う。
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