天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 梅吉兄さんと道松兄さん、仲悪い癖に、こういう時ばかり息が合うんだから。やんなっちゃう!

「さてと。そんじゃあ、俺達と菊・芒ペアで決勝戦か……って、おい。芒はどこだ?」

 梅吉兄さんの言葉に私達も辺りを見回すけど、芒の姿はどこにもない。

 そう言えば芒、私のためにって、お菓子を取りに行ったきり、まだ戻って来てない。

 私は部屋に行ったけど、でも芒はいなかった。そのことを兄さん達に知らせると、みんなで手分けして旅館内を隅々まで探したけど……。

「どこにもいませんね。芒ってば、どこに行っちゃったんだろう……」

 部屋に集合した私達は、困惑顔を突き合わせた。

 どうしよう、私のせいだ……。

 そう思っていると藤助兄さんが小刻みに震え出し、
「たたりだ……、きっと幽霊のしわざだよ! 芒は幽霊に連れ去られちゃったんだ!」

「おい、おい。いくらなんでもそれはないだろう。だが、本当に芒はどこに行ったんだ?」

 誰もが首を傾げさせている中、ふと菖蒲兄さんが庭先の地面を指差して、
「この足跡、芒くんの物ではないですか?」
と言った。

「あっ、本当だ。こんな所に足跡が。この大きさは、きっと芒だ!」

「この足跡、柵の向こうに続いてるぞ」

「ってことは、芒は山の中に入って行ったのか……?」

 地面から顔を上げ、鬱蒼と茂っている木々の向こうを見渡すけど、芒の姿は確認できない。

「旅館の中にはいなかったんだ、そう考えるのが自然だろう。
 よし、それじゃあ探しに行くぞ。牡丹は留守番な。芒が戻って来るかもしれないから、そしたら連絡してくれ」

 分かったと私は返事したけど、ちょっと待って。兄さん達はみんな芒を探しに行っちゃうんだよね? となると、私一人で部屋にいることになるんだよね。別に幽霊なんて信じてないけど、信じてないけどさ……。
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