天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 そう言えばストーカーの件の時も、そう言ってくれたっけ。

 兄さんが優しいのは分かるし、今だって兄さんのおかげで助かったけど……。でも、自分のことも大切にしてほしいよ。

 そんなことを思っていると、遠くの方から物音が聞こえてきた。その音に誰もが身構えたけど。

「おーい、芒はいたかー?」

「梅吉兄さん達! それが、クマが出て……」

「はあっ、クマだって? この山、クマがいるのかよ」

「なるべく一塊になって行動した方が良さそうですね」

 菖蒲兄さんの案にみんなうなずき、芒探索を再開しようとしたけど、その矢先。私のすぐ後ろの草木が大きく揺れ動いた。

 感じ取った気配に私はとっさに振り向くけど、鋭い瞳と宙の一点で交り合う。逃げ出そうとしたけど、うまく足に力が入らなくて、その場から一歩も動けない。

 けれど、次の瞬間。

「ストーップ!」
と甲高い音がその場に響き渡った。そして、スパンッ――! とクマの眉間に一本の扇子が直撃した。

 続いて、茂みの中から小さな塊が飛び出した。その影は月光を浴びて、次第にその身を晴らしていき――……。

「す……、芒――!??」

 芒は、すとんときれいに着地を決めると、そのままクマに近付いて行く。

 クマに向かって、すっと腕を伸ばして、
「ごめんね、痛かったよね」
 小さな手を使って、そっとクマの額をさすった。その間、クマはおとなしくて芒にされるがままで。しまいにはバイバイと芒に手を振られながら、のそのそと山の奥へと帰って行った。
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