天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
「そりゃあ本来なら同じ家で同じ時間を過ごすのが一番家族として理想的なんだろうけど。でも、それは一つの在り方に過ぎなくて、その形は家族によって様々でもいいんじゃない?
 だからさ。足利家のことを無理に捨てなくてもいいんじゃない? 確かに牡丹は今は足利家の人間じゃないけど、それって戸籍上で言ったらでしょう? 牡丹が足利家にいた事実は変わらない。
 今の家と足利家と、両方を大事にしても罰なんか当たらないよ」

 両方を……。

 そんなこと、考えたこともなかった。

 私は思わず呆気に取られて、きょとんと目を丸くさせる。

 美竹は、ふっと柔らかく笑い、
「まずはちゃんと話してみなよ。お兄さん達に足利家のことを。
 逃げることって、決して悪いことじゃないと思うけどさ。逃げるのって、一つの知恵なんだよね。自分を守るための本能的行動だもん。だけど大切なのは、逃げた後、どうするかってことだと思う。
 どうせ牡丹、なにも言わずに飛び出して来たんでしょう? 牡丹って、そういう所あるよね。一人で全部抱え込もうとしてさ。自分ばかりが変に深刻になってるだけで、案外相手はそんな風に思ってなかったりするものだよ。
 だから、」

「ちゃんと向き合ってみなよ」美竹にしてはめずらしく真剣な声だ。その音は雑音に紛れることなく、私の中にするりと入り込む。

 自分ばかりが……。確かに私、逃げてばかりだ。あの時だって、今回だって。なにも言えずに……、ううん、なにも言わずにただ逃げ出したんだ。

 ちらりと窓越しにカーテンの隙間からのぞいている月を見つめながら。

「そう……だね……」

「ていうか牡丹、アイス溶けてるよ」

「えっ……? わっ、本当だ!」


 美竹に指摘され気が付くけど、すっかり生温くなったそれを手にしたまま、私はぐにゃりと眉をゆがめさせた。

 私は美竹が用意してくれた布団に半ば体を投げ出すようにして横になる。そして急激に襲って来た眠気に素直に従い、重たいまぶたをゆっくりと閉ざさせていった。
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