天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 そっか、紅葉ちゃんも菊と同じ演劇部だっけ。だからかな。菊、紅葉ちゃんのことは、ちゃんと名前で呼ぶんだ。私のことは、お前とかアンタなのに……。

 なんだろう、なんだかもやもやする。

 胸の辺りに違和感を覚えていると、
「やっぱり怪しいのよね、あの二人……」
と私のすぐ耳元で不気味な声がした。振り向くと、すぐそばに美竹がいた。

「怪しいって、なにが?」

「なにがって、そんなの決まってるじゃん。あの二人の関係よ。菊くんと紅葉、付き合ってないって言ってるけど、なーんか怪しいのよねえ」

 実はこっそり付き合っているんじゃないか、それが美竹の言い分みたい。

「紅葉ってかわいいし、菊くんと仲良いし。あの菊くんが真面に口を利くのなんて、女の子の中だと紅葉くらいだよ。他の子が話しかけても大体が無視されるか、素っ気ない反応されるかだもん」

 ふーん。菊って私だけじゃなく、他の子に対してもそうなんだ。それじゃあ、紅葉ちゃんは特別なんだ。……特別、か。

 半分だけど血が繋がっている私よりも、紅葉ちゃんの方が菊と仲良いなんて、ね。

 まあ、美竹の言う通り、紅葉ちゃん、かわいいもんね。それに優しくて、おしとやかで女の子らしくて私とは大違い。クッキーだって、とっても上手に作れるし。うん、菊が紅葉ちゃんのこと特別扱いするの、よく分かるよ。

 気にしたってしょうがない。……だよね?

 私は軽く頭を振り払うとクッキーをカバンの中にしまい、代わりに一限目の授業の準備を始めた。
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