天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 水を吸ってすっかり重たくなった足を引きずるようにして歩いて、ようやく家にたどり着くと、私と菊の格好を見るなり藤助兄さんは、
「どうしたの、その格好は!?」
 素っ頓狂な声を上げた。

 藤助兄さんは慌てて洗面所に行くと、何枚もタオルを持って戻って来た。

「もう、一体なにしたの。うわっ、靴なんかびしょびしょじゃないか。まだお風呂が沸いてないから、もうちょっと待って」

 本当になにをしたんだと兄さんに怒られていると、傍らから、ぷぷっ……と小馬鹿にした笑い声が聞こえて来た。そちらに視線を向けると、そこにはわざと笑いを堪え切れていない梅吉兄さんの姿があった。

「お前達、随分と仲良くなったんだな。そんなに仲が良いなら、風呂だって一緒に入ればいいのにー」

 くすくすと梅吉兄さんはまた笑い声を上げるけど、次の瞬間、ぼこんっと鈍い音が鳴った。

 菊が投げたカバンを頭に受けた梅吉兄さんは、
「いってえ……!」
と短い悲鳴を上げる。

「梅吉がしつこくからかうからだろう。梅吉が悪い」

「なんだよー、冗談に決まってるだろう。ったく、菊のやつ、相変わらずユーモアの欠片もない。
 で、牡丹よ。一体なにがあったんだ?」

「なにって……。私のキーホルダーが公園の池の中に落ちちゃったから探していたんです。それだけですよ」

「ふうん。それだけねえ」

「なんですか? その目は」

「別にい」

 梅吉兄さんはいま一つ納得していない顔で私を見つめていたけど、それにも飽きたのかテレビの画面に視線を戻した。

 その間にお風呂が沸き、私は藤助兄さんに促されて一足先にお湯をもらった。
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