天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 一人きりになった私は鼻先のお札の束をじろじろと眺めながら、一つ大きな息を吐き出す。

 確かにこのお金は、とっても魅力的だ。もし手に入ったら、これから先、一人で生きていく私にとっては大きな支えになると思う。

 だけど、やっぱり私には道松兄さんを説得させられない。それに道松兄さんの事情もよく知らないんだ。ラブレターの件でもそうだったけど、事情を知らない第三者の私が一方的におじいさん達の肩を持つのは間違ってると思うもの。

 どうしたものかと思っていると、外側から襖が開いて、
「お茶のお代わりはいかがですか?」
 年齢の割にはぴんと背筋が伸びている、品の良さそうなおばあさんが入って来た。

「えっと、大丈夫です」

 私は並々にお茶が入ったままの湯飲みを見つめながら、せっかくの好意だけど丁寧に断る。すると、おばあさんは気にしてないのか、分かりましたと簡単に返した。

 だけど、おばあさんはすぐに部屋を出ようとはしないで、その上、
「道松坊っちゃまはお元気ですか?」
 そう訊ねてきた。

 兄さんのこと知ってるの? そう思っていると、おばあさんは、
「道松坊っちゃまのお世話係をしていました、お登勢(とせ)と申します」
と私が問いかける前に自ら素性を明かし、深く頭を下げた。
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