天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 道松兄さんに、そんな事情があったなんて……。

 私、全然知らなかった。道松兄さんも他の兄さん達も、誰も教えてはくれなかったんだもん。クラスの子達が兄さんのこと、貴公子とか言ってたけど、でも、まさか本当にその通りだったなんて。

 なんだか兄さんが急に遠い人に思えてきた。だって豊島グループの、それも会長さんのように身分の高い人と、もし私が兄さんと半分だけど血が繋がってなければ一生関わることなんてなかっただろう。

 その人達の目的が、兄さんを豊島家に復縁させる、か。

 理由は分からないけど、でも、兄さんは嫌がってるんだよね。豊島家に復縁できたら元の家に帰れるだけじゃなく、将来だって会長という座が約束されてて安泰所か一生裕福な生活が保証されてるだろうに。それでも嫌なんだよね。

 やっぱり道松兄さんを説得するなんて……。

 できる訳ない。

 かと言って、おじいさん達は、私がうんと言うまで、このお屋敷から帰してはくれないみたい。

 試しに襖を開けると、部屋の前には二人の強靭そうな男の人が立っていて、
「なにかご用ですか?」
 私に気付くと硬い口調で訊ねてきた。

「あの、そろそろ家に帰りたいんですけど……」

 正直にそう言うと、さっきの秘書さんが部屋から出ようとしている私に気付いてやって来た。

「先程の件、ご了承してくださいましたか?」

「えーと、それは、そのー……」

 遠回しに断ると秘書さんは鉄板みたいに固い表情のまま、
「もう少し考えてはいただけませんか? そうですね、牡丹様のために特別な夕食もご用意いたしますので、ぜひ召し上がってください」

 秘書さんは勝手に決めてしまうと、おそらくその手配だろう。近くにいた使用人達にあれこれと指示を出し始める。

 私はその様子を遠くから眺めていたけど、するすると突き出していた顔を、亀が甲羅の中に身を隠すように部屋の中へと引っ込めて、そっと襖を閉めた。
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