天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 私は床の間に飾ってあった日本刀を用心棒代わりに拝借し、襖の前で一つ大きく深呼吸。心を落ち着かせると襖の引き手に手をかけ、そして。すぱんっ! と一気に開け放つと、そのまま部屋を飛び出した。

 背後から部屋の前で見張っていた男達の慌てた声が聞こえて来たけど、私はそれを無視して走り続ける。

 玄関はどこだろう。早くここから出ないと捕まっちゃう。私は時折身を隠しながらも、がむしゃらに広い屋敷の中を走り続ける。

 だけど出口はなかなか見つからない。その上、私が逃げ出したことが屋敷中に知れ渡っちゃったみたい。追っ手の数も増えているように感じる。早く脱出しないと。

 そう思うのに、……ああ、もう! また行き止まりだ。玄関はどこ!?

 家が広過ぎるのも困りものだと思っていると、近くからバタバタと足音が聞こえて来た。

 いけない、捕まっちゃう。だけど目の前は壁だ。

 私は迷った末、とっさに近くの部屋の中に入り込んだ。

 耳を澄まして外の様子をうかがうと、どうやら足音の主達は、私がこっちには来てないと思ったみたい。すぐに足音が遠ざかっていった。

 ひとまず助かった、と安堵の息をもらしたのと同時。ふと人の気配を感じたけど、気が付くのが遅かった。背後から、がばりと肢体を捕らえられる。

 しまった、捕まった――!??

 口をふさがれた私は、悪あがきとばかり暴れまくる。

 だけど。

「落ち着け、牡丹。俺だ、俺」

 この声は……。

「道松兄さん!?」

 私の口をふさいでいたのは道松兄さんだった。
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