天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
 私が落ち着くと兄さんの手が口から離れ、私は小さく深呼吸をした。

 道松兄さん、助けに来てくれたんだ――……!

 兄さんの顔を見たら緊張の糸が切れちゃったみたい。体中から力が抜けていく。

 兄さんは私の顔をのぞき込んで、
「どうした。アイツ等になにかされたのか?」

「いえ、大丈夫です」

「そっか」

 道松兄さんは短い息を吐き出すと私の頭に右手を添え、それから抱き寄せて、
「巻き込んで悪かった」
 そのまま私の首元に顔を埋めた。

 道松兄さん……? どうしたんだろう。なんだかしおらしくて、いつもの兄さんらしくない。兄さんのあせった顔、初めて見たな。兄さんの髪の毛が首に当たって、少しくすぐったい。

 兄さんは、
「怖かっただろう」
 私の頭を優しくさすった。

 兄さんの優しいその圧力に、私は素直にうなずいた。

 兄さんの言う通り、本当はすごく怖かった。どうなっちゃうんだろうって、家に帰れるのかなって不安だった。

 思わずぎゅっと兄さんの服の裾をつかむと、兄さんは、ぽんぽんと私の頭をなでてくれる。

 その心地良い感触にすごく安心して、
「私なら大丈夫です」
 もう一度そう言うと、兄さんはゆっくりと顔を上げていった。兄さんの顔は、いつもの仏頂面に戻っていた。
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