天正さんちの家族ごっこ〜私に異母兄弟が七人もいる件について〜
「にしても。どうして助けを呼ばなかったんだ。スマホ、持ってるだろう」

「それが圏外で電波が通じなくて……」

「圏外だと? ……野郎。電波妨害装置でも使ってるな」

 兄さんも自分のスマホの画面を見て、苦虫を噛み潰した顔をする。

 そっか。そんな装置が働いていたから、スマホの電波が通じなかったんだ。

 私が一人納得していると、兄さんはまた首を傾げ、
「牡丹、その手に持ってるのはなんだ?」
と私の手元を指差した。

「これは、そのう、用心棒に床の間に飾ってあった物を拝借して……」

「お前なあ……。なに考えてんだよ。それ、真剣だろう。危ないだろうが」

「えっ、真剣!? レプリカじゃないんですか?」

 道理でやけに重いと思った。私はなんだか急に怖くなる。

 私が手の中の物を持て余していると、道松兄さんはまた一つ乾いた息を吐き出した。

「大体、部屋から抜け出して。ったく、おとなしく待ってろよ。どんだけ探し回ったと思ってるんだ。そうやって自分だけでどうにかしようとすんの、お前の悪い癖だ」

 そんなこと言われたって……。だって、まさか兄さんが助けに来てくれるなんて思わなかったんだもん。

 そうだよ。

「よく分かりましたね、私がここに連れて来られたって」

「買い物帰りの藤助が丁度見かけたんだよ。お前がウチの車に連れ込まれる所を。
 アイツ等は目的のためだったら手段を選ばない。そういうやつ等だ」

「そうだったんですか……。
 それにしても、大きなお屋敷ですよね。この部屋だって、とっても広いし」

「ここは、俺が昔、使っていた部屋だ」

「えっ。兄さんの部屋?」

 私はぐるりと部屋の中を見渡す。ウチのリビングよりも広い室内には、上等な品ではあるんだろうけど机と椅子、それからベッドに本棚くらいしかなくて殺風景で。子ども部屋だったなんて言われなかったら分からなかったと思う。

 お登勢さんが言ってたっけ。道松兄さんは一族の人だけじゃなく、お母さんからも隔離されるようにして育てられたって。

「あの。道松兄さん、その……」

 話したくないなら、それでもいいの。誰にだって知られたくないことはあるもんね。

 だけど。

 道松兄さんのこと、私、全然知らない、知らなかった。みんな、兄さん以外の人の口から聞いたことだ。

 どうしてだろう。その事実に私の胸は鈍い鉛みたいな痛みを覚える。
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